川原湯(かわらゆ)温泉の共同浴場「王湯」で、硫黄の香る重い湯にじっくり浸かった。湯上がり、火照った体で次に向かったのは、坂を少し下ったところにある一軒の食事処だった。
「湯宿・御食事 やまきぼし」。看板には温泉マークと、料理の写真がずらりと並ぶ。この日――2026年6月14日の昼――湯のあとの腹を満たしに、ここで洋食ランチをいただいてきた。

八ッ場ダムに沈むはずだった温泉街の食事処
やまきぼしを語るには、まず八ッ場(やんば)ダムの話を避けて通れない。
川原湯温泉の古い温泉街は、八ッ場ダムの建設で水没予定地になった。多くの旅館や店が立ち退きを迫られ、やまきぼしもそのひとつ。長く旅館を営んでいたが、ダム工事による移転を経て、2018年8月に高台の代替地で御食事処として再出発した。建物は新しく建て直され、いまは宿泊と食事を中心に、夫婦で切り盛りしている。先代から受け継いだ洋食の味が、ここでも続いている(公式サイトより)。
古い温泉街の佇まいは失われても、その味と暮らしは形を変えて高台に続いている。川原湯温泉そのものの来歴が、この一軒にも重なって見える。

基本データ
| 店名 | 湯宿・御食事 やまきぼし |
|---|---|
| 所在地 | 群馬県吾妻郡長野原町大字川原湯487-5 |
| 電話 | 0279-83-2011 |
| 営業時間 | ランチ 11:00〜14:00/ディナー 18:00〜22:00(L.O. 21:30、ディナーは予約制) |
| 定休日 | 不定休(来店前に公式サイトのカレンダーか電話で必ず確認を) |
| 価格帯 | ランチ 1,100〜1,600円(税込) |
| 支払い | 電子マネー・QRコード(PayPay等)可/クレジットカード不可(最新は店舗で確認を) |
| 席 | テーブル席+テラス席。窓・テラスから八ッ場あがつま湖(ダム湖)方向の眺め |
| 駐車場 | あり |
| アクセス | JR吾妻線 川原湯温泉駅から徒歩15分ほど。坂道なので車での来訪が現実的。共同浴場「王湯」のすぐ近く |
| 訪問 | 2026年6月14日(土)昼 |
雰囲気|アットホームで清潔、眺めのいい店内
店に入ると、夫婦で営むこぢんまりとした空間。飾らずアットホームで、それでいて清潔感のある居心地のいい店だった。
席はテーブル席のほか、ダム湖の方を向いたテラス席がある。この日、テラスには先客が3組。普段の温泉では露天で外気に当たるのが好きな質だが、食事となると話は別で、私は迷わず店内の席を選んだ。屋内なら虫も来ないし風にも吹かれず、それでいて窓の向こうに景色はちゃんと見える。湯上がりにゆっくり食べるなら、個人的には中の席のほうが落ち着く。

メニュー|洋食一辺倒、土鍋のシチューから温玉ロコモコまで
メニューはビーフシチュー、煮込みハンバーグ、ハッシュドビーフ、各種カレー、オムライス……と、洋食一辺倒の潔い品ぞろえ。価格はおおむね1,100〜1,600円に収まる。
1日5食限定のオムライスもあれば、店のメニューに「上州ブランド豚 やまと豚」とある焼肉定食やチャーシュー丼も並ぶ。ビーフシチューと煮込みハンバーグを一皿で両取りできるコンボ(1,600円)まである。どれも気になる顔ぶれだ。

この日は、看板メニューのビーフシチューと、店の名を冠したやまきぼしのロコモコを頼んだ。
ビーフシチュー・セット(1,400円)

熱々の土鍋で運ばれてくるのが、やまきぼしのビーフシチュー。ごはん、サラダ、スープ(汁物)がついた定食仕立てだ。
食べてまず驚いた点が二つ。ひとつは肉。箸でほどけるほど柔らかく、まるで角煮のようで、口に入れるとほろりと崩れる。煮込みの仕事がしっかり効いている。もうひとつはつゆだ。とろみの濃いデミグラスを思い描いていたら、出てきたのはシャバシャバのスープ仕立て。これは正直、予想を裏切られた。ブロッコリーやにんじんといった野菜がごろごろ沈んでいる。
口コミでも「肉がとろける」と評判の一方、「シチューというよりスープ系」「もう少しコクが欲しい」という声がある。こってり濃厚なシチューを求めるなら、同じ店の煮込みハンバーグのほうが好みに合うかもしれない。ただ、この軽やかさは湯上がりの体にはむしろちょうどよかった。角煮のような肉と、出汁の効いたスープ。「ビーフシチュー」という名前から受ける印象とは、いい意味で別物だった。
やまきぼしのロコモコ(1,300円)

もう一品が、ワンプレートのロコモコ。ふっくらしたハンバーグに濃い色のソースがかかり、ごはんとサラダが一皿に盛られている。
注目は、のっている卵。一般的なロコモコは目玉焼きが定番だが、ここでは温泉玉子がのる。半熟の黄身を崩してハンバーグとソース、ごはんに絡めると、全体がまろやかにまとまる。メニューを見ると、やまと豚のチャーシュー丼にも温泉玉子が添えられていて、温泉地ならではの一手間が店全体に通っている。「やまきぼしの」とわざわざ冠する理由は、このあたりにあるのだろう。
王湯とセットで、川原湯温泉のひるどきを
やまきぼしは、共同浴場「王湯」のすぐ近く。湯を浴びてから、その足で歩いてランチ――という川原湯温泉らしい昼の過ごし方ができる。日帰り入浴は王湯で、ごはんはやまきぼしで、という組み立てだ(やまきぼし自体の温泉は宿泊者向けで、日帰り入浴は受けていない)。
▼この日に浸かってきた王湯の日帰り入浴レポートはこちら → 川原湯温泉 王湯 日帰り入浴|八ッ場ダムで蘇った共同浴場
▼やまきぼし以外のランチ候補も気になるなら、八ッ場ダムを挟んで反対側のうどん店もおすすめ → 麦の香り 八ッ場店|八ッ場ダム前のコシうどんランチ
八ッ場ダムの観光や、草津・万座方面の温泉ドライブの締めに。一度は水の底に沈むはずだった土地で、高台の景色とともに、夫婦が守る洋食をゆっくり味わってみてほしい。
▼ 八ッ場・長野原町を、ふるさと納税で応援する|感謝券は周辺のグルメ・旅館で使える
長野原町のふるさと納税には「ふるさと感謝券」(1万円の寄付で3枚・有効期限1年)があり、北軽井沢・八ッ場ダム周辺のグルメ・旅館・アクティビティの取扱店で使えます。八ッ場観光とセットで地元を応援できます。
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