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川原湯温泉 王湯 日帰り入浴|八ッ場ダムで蘇った共同浴場

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この温泉は、一度は水の底に沈むことが決まっていた。

八ッ場(やんば)ダムの建設で、川原湯(かわらゆ)温泉の古い温泉街は水没予定地になった。長く湯客を迎えてきた共同浴場「王湯(おうゆ)」も、例外ではなかった。それでもこの湯は消えなかった。2014年、高台の代替地に「王湯会館」として移転再建され、800年の歴史を引き連れて、いまも源泉を注ぎ続けている。

高台に建つ王湯会館。外観には源氏の家紋が掲げられている
高台に建つ王湯会館。外観には源氏の家紋が掲げられている

「川原湯温泉 王湯」(かわらゆおんせん おうゆ/施設名は「王湯会館」)は、群馬県吾妻郡長野原町にある日帰りの共同浴場だ。大人500円で入れて、湯は源泉かけ流し(加水あり)。観光地のきれいな日帰り施設というより、地元の人が普段づかいする昔ながらの湯屋の空気が残っている。群馬在住で、島根や大分の鄙びた湯まで足を延ばしてきた身としては、こういう「歴史を背負った一湯」にはどうしても弱い。2026年、平日の昼に立ち寄ってきた。

八ッ場ダムに沈んだ旧温泉街と、高台で蘇った王湯|源頼朝から800年

湯に入る前に、この温泉が背負ってきたものに触れておきたい。

川原湯温泉の発見は、伝承によれば1193年(建久4年)頃。狩りの途中に立ち寄った源頼朝が見つけたと語り継がれている。「大湯(おおゆ)」と呼ばれたこの湯が、やがて「王湯」の字をあてられるようになった。これが名の由来とされる。外観に丸い源氏の家紋が掲げられているのも、その伝説に連なる意匠だ。

それから800年あまり。川原湯温泉に転機が訪れたのが、八ッ場ダムの建設だった。谷あいにあった古い温泉街は水没予定地となり、王湯も移転を迫られる。旧王湯は2014年6月末で営業を終え、同年7月5日、高台の代替地に「王湯会館」として生まれ変わった。旧来の源泉「元の湯」に加え、移転後は新たに掘削した「新湯」も使われている。浴室に掲げられた温泉成分の掲示表(温泉分析書)の源泉名にも、この2つの名が並んでいた。

館内には、旧温泉街や移転の様子を伝える展示や写真も掲げられている。いま自分が浸かろうとしている湯が、どんな歴史と土地の決断の上に成り立っているのか。それを知ってから湯に向かうと、その重みごと湯に浸かるような気持ちになった。

お湯|油のような匂いと、緑がかった「重い湯」

泉質は、含硫黄-カルシウム・ナトリウム-塩化物・硫酸塩温泉(低張性中性高温泉)。長い名前だが、ざっくり言えば「硫黄を含み、塩分と硫酸塩を主役にした湯」だ。末尾の「低張性中性高温泉」は、体液より薄め・中性・源泉が高温という湯の分類を示している。硫黄を含む含硫黄泉でありながら、塩化物泉らしい「温まりの湯」の性格と、硫酸塩泉の顔もあわせ持つ。

掲示表には泉質名と適応症が記されており、療養泉(温泉法の規定量を満たし、泉質名と適応症がつく温泉のこと)に該当する。源泉の温度は75.3℃とかなり熱く、浴槽に使われる時点では43.0℃。pHは7.41で中性、成分総計は2.13g/kgだった。

内湯「三峰の湯」。緑がかった澄んだ湯がたたえられていた
内湯「三峰の湯」。緑がかった澄んだ湯がたたえられていた

実際に湯に身を沈めて、まず感じたのは匂いだった。強くはない。ほんのりとだが、独特の匂いだった。私には「油のような」におい、と感じられた。「ゆで卵の硫黄臭」をはっきり期待していくと、肩透かしかもしれない。記憶のなかの島根・温泉津の湯は、もっと茶色く濃く、硫黄もずっと強かった。それと比べると、王湯はずいぶん穏やかだ。だがこの匂いは、無臭の沸かし湯にはない、土地の地中から汲み上げた湯ならではのものだった。

そして湯ざわり。ひとことで言えば「重そうなお湯」だった。とろみやぬるぬる感があるわけではなく、むしろさらりとしている。それでいて、肌にまとわりつくような存在感があった。成分をたっぷり含んだ湯ならではの密度、とでも言えばいいのか(私の感覚で、科学的な裏づけがあるわけではない)。透明ピカピカの軽い湯より、こういう「中身の詰まった」湯のほうが、私は好きだ。

湯の色は、緑がかった透明。光の加減で淡く緑を帯びて見える、澄んだ湯だ。この匂いも色も重さも、内湯と露天で大きく変わることはなかった。

湯づかい|加水のみの源泉かけ流し(循環なし・消毒なし)

湯づかいは、浴室に掲げられた掲示(温泉利用状況)にはっきり書かれていた。源泉温度が高いので加水あり。一方で、加温なし、循環・ろ過なし、入浴剤なし、そして消毒剤も使用なし。つまり、熱い源泉を水で薄めて適温にしているだけで、それ以外は手を加えていない。塩素で消毒することも、湯を機械で回して使い回すこともしていない。加水こそあるものの、限りなくシンプルな源泉かけ流しだ。

湯口には温度計。高温の源泉を加水して適温に整えている
湯口には温度計。高温の源泉を加水して適温に整えている

湯口には温度計が据えられていて、湯温はしっかり管理されていた。源泉が75℃超と高温なので、そのままでは熱くて入れない。だから加水して適温に整えている。さすがに「純100%」とまでは言えないが、消毒のにおいがまるでなく、絶え間なく新しい湯が注がれていく感覚は、浸かればしっかり伝わってきた。共同浴場でこの湯づかいは、正直ありがたい。

浴室「三峰の湯」|飾り気のなさが、湯に集中させる

浴室の名前は「三峰(みつみね)の湯」。内風呂と露天風呂から成る。

内湯は、木の天井がかかった落ち着いた造りだ。共同浴場らしく、華美な装飾はない。その素っ気なさが、かえって湯そのものに集中させてくれる。浴槽には緑がかった澄んだ湯がたたえられ、石組みの湯口から湯が注がれていた。

内湯の奥、ガラス越しに露天風呂が見える
内湯の奥、ガラス越しに露天風呂が見える

奥のガラス越しには、露天風呂が見える。内湯でしっかり温まってから、露天へ。共同浴場で規模も大きくないから、訪れたときはそこそこ混んでいた。独り占めとはいかなかったが、地元の人がゆっくり浸かっている湯に、よそ者が混じって湯を分け合う。共同浴場の、あの居心地のよい距離感があった。

露天風呂|木立の隙間に、八ッ場あがつま湖

露天は、木々の緑に囲まれていた。

木々の緑に囲まれた露天風呂
木々の緑に囲まれた露天風呂

私が入った男湯の露天からは、木立の隙間に八ッ場あがつま湖(八ッ場ダムのダム湖)がのぞく。「湖を一望」というほど豪快に開けてはいない。葉のあいだから水面がちらりと見える程度だ。だがこの控えめさが、かえって悪くない。さきほど歴史のところで書いた、水没した古い温泉街は、いままさにあの湖の底に沈んでいる。それを緑越しに眺めながら湯に浸かると、ただの眺望以上の重みがあった。

長湯したあとは、湯船の縁に腰かけて、木立を抜けてくる風に当たる。火照った体がすっと冷めていく。この外気でのクールダウンが、私は昔から好きだ。注がれ続ける湯の音と山の風。いつまでも居たくなる露天だった。

効能と禁忌|療養泉の適応症と、肌が弱い人への注意

王湯の湯は療養泉に該当するので、掲示には泉質ごとの適応症(その温泉に入ると効果が期待できると公的に区分された症状のこと)が記されている。ここは誇張せず、環境省の基準で「適応症とされる」ものを、そのまま引用する形で紹介したい。効くと断定するものではなく、あくまで公的な区分だ。

掲示の「この温泉固有の適応症」には、アトピー性皮膚炎・尋常性乾癬・慢性湿疹・表皮化膿症・きりきず・末梢循環障害・冷え性・皮膚乾燥症・うつ状態が挙げられている。あわせて「温泉の一般的適応症」として、筋肉や関節の慢性的な痛み・こわばり(神経痛・腰痛症・五十肩などの慢性期)、疲労回復、健康増進なども記されていた。いずれも環境省の基準にもとづく区分だ。

一方で、適応症と禁忌症(その湯を避けたほうがよい状態のこと)はセットで知っておきたい。含硫黄泉の泉質別禁忌症として、掲示には「皮膚または粘膜の過敏な人・高齢者の乾燥症」が挙げられている。環境省基準でも含硫黄泉はこの2つを禁忌症としているので、肌が敏感な人や乾燥肌の人は、長湯を避け、上がり際にかけ湯で流すなどの配慮をしたほうがよい。発熱しているときや体調がすぐれないときの入浴も、一般的禁忌症として控えたほうがよい。

なお王湯は浴用専用で、館内の掲示に飲用(飲泉)の案内はなかった。湯は浴びて味わうもの、と心得ておきたい。

温泉の効能が科学的にどこまで裏づけられているのかは、温泉の効能はどこまで本当かという記事に、公的基準とエビデンスをあわせて整理している。適応症との付き合い方が見えてくるはずだ。

王湯のアクセス・料金|現金のみ・定休に注意

王湯会館は、八ッ場ダムを見下ろす高台の一角にある。万座・草津方面の温泉から国道145号で下ってくる道筋にあたり、温泉ドライブのルートに組み込みやすい。

注意したいのは支払いと定休だ。料金は現金のみ(チケット制)で、キャッシュレスは使えない。小銭を含めて現金を用意していこう。定休は毎月第3木曜日と年末年始(1/1〜1/3)。さらに、毎年1月20日の「湯かけ祭り」当日は休館になる。せっかく足を運んで閉まっていた、とならないよう、定休まわりが読みにくい日は、訪問前に0279-83-2591で確認しておくと安心だ(この番号は当日の営業確認用。予約や一般の問い合わせは0279-83-2030)。駐車場は無料で、大沢・打ち越し沢の2か所あわせて普通車で約65台分あるので、車でのアクセスに困ることはない。

浴室の温泉成分掲示。源泉名や湯づかい(加水のみ・消毒なし)が記されている
浴室の温泉成分掲示。源泉名や湯づかい(加水のみ・消毒なし)が記されている

かつて水の底に沈むことが決まっていた湯が、いまも温かく人を迎えている。その事実だけで、500円のチケットを買う理由としては十分だと思う。強烈な硫黄臭やインパクトを求める人には穏やかすぎるかもしれないが、湯の質感と土地の歴史をゆっくり味わいたい人には、忘れがたい一湯になるはずだ。

湯あがりに腹を満たしたいなら、同じ長野原町・八ッ場エリアにある麦の香り 八ッ場店のコシの強い極太うどんがおすすめだ。洋食の気分なら、すぐ近くのやまきぼしで土鍋のビーフシチューや温泉玉子のロコモコも食べられる。王湯と同じ群馬の硫黄を含む湯で、もっと濃い湯を浴びたくなったら、白濁の硫黄泉が名物の万座豊国館もぜひ。八ッ場で蘇った共同浴場と、山上の乳白色。同じ吾妻郡の湯を巡り比べてほしい。

▼ 八ッ場・長野原町を、ふるさと納税で応援する|感謝券は周辺のグルメ・旅館で使える

川原湯温泉のある長野原町のふるさと納税には「ふるさと感謝券」(1万円の寄付で3枚・有効期限1年)があり、北軽井沢・八ッ場ダム周辺のグルメ・旅館・アクティビティの取扱店で使えます。王湯の湯あがりに立ち寄る食事や、川原湯温泉の旅館での宿泊とあわせて、八ッ場の地元を応援できます。

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よくある質問(FAQ)

Q. 川原湯温泉 王湯は日帰り入浴できる?料金は? A. できます。共同浴場で、料金は大人500円・小学生以下300円(2時間が目安)。営業は10:00〜18:00(最終受付17:30)です。支払いは現金のみ(チケット制)なので、現金を用意していきましょう。

Q. 定休日は? A. 毎月第3木曜日と年末年始(1/1〜1/3)が定休です。加えて、毎年1月20日の「湯かけ祭り」当日は休館になります。確実に入りたい日は、事前に0279-83-2591(当日の営業確認用)で確認するのがおすすめです。

Q. 泉質は?硫黄の匂いは強い? A. 含硫黄-カルシウム・ナトリウム-塩化物・硫酸塩温泉(療養泉)です。私が入ったときの硫黄の匂いは「ほんのり」程度で、ツンと来る強さではありませんでした(個人の感想)。湯は緑がかった透明で、とろみはないものの肌に存在感のある「重そうな湯」でした。

Q. 源泉かけ流し?加水や消毒は? A. 館内掲示(温泉利用状況)によると、源泉が高温のため加水あり・加温なし・循環ろ過なし・入浴剤なし・消毒剤なし。加水のみのシンプルな源泉かけ流しです。源泉75.3℃を加水して適温(浴槽利用時43.0℃)に整え、湯口の温度計で管理していました。塩素消毒をしていないぶん、湯のにおいもおだやかでした。

Q. 露天風呂から八ッ場ダム(八ッ場あがつま湖)は見える? A. 私が入った男湯の露天からは、木立の隙間に湖がのぞく程度でした。豪快な一望ではありませんが、かつて温泉街が沈んだ湖を緑越しに眺めながら浸かれます。

Q. 駐車場はある? A. 無料で、大沢・打ち越し沢の2か所あわせて普通車で約65台分あります。八ッ場ダムを見下ろす高台にあり、車でのアクセスに困りません。

Q. 八ッ場ダム周辺で日帰り入浴できる温泉は? A. 王湯(川原湯温泉)が八ッ場ダムを見下ろす高台にあり、大人500円で日帰り入浴できます。湯あがりの食事は同じ八ッ場エリアの「麦の香り 八ッ場店」、さらに足を延ばせば万座温泉の豊国館などもあり、温泉ドライブの拠点にしやすいエリアです。

基本情報

項目内容
施設名川原湯温泉 王湯(おうゆ/王湯会館)
浴室名三峰の湯(内風呂・露天風呂)
住所群馬県吾妻郡長野原町川原湯
電話0279-83-2030(予約不可・一般問い合わせ)/0279-83-2591(当日の営業・定休確認用)
営業時間10:00〜18:00(最終受付17:30・入浴は2時間が目安)
定休日毎月第3木曜日+年末年始(1/1〜1/3)/1月20日「湯かけ祭り」当日は休館
料金大人500円・小学生以下300円
泉質含硫黄-カルシウム・ナトリウム-塩化物・硫酸塩温泉(低張性中性高温泉)・療養泉
源泉名川原湯温泉(元の湯・新湯/2源泉を使用)
源泉温度75.3℃(源泉)/43.0℃(浴槽利用時)・pH7.41・成分総計2.13g/kg
湯づかい源泉かけ流し(加水あり/加温なし・循環ろ過なし・入浴剤なし・消毒剤なし=掲示「温泉利用状況」より・温度計管理)
設備男女別内湯・露天風呂・移転/旧温泉街の展示
支払い現金のみ(チケット制)
駐車場無料・約65台(大沢・打ち越し沢の2か所)
歴史1193年頃 源頼朝が発見と伝わる/2014年7月 高台へ移転再建(八ッ場ダム)

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