建久二年(1191年)、狩りの帰りに草津で湯入りし、そのあとこの湯に浸かった——沢渡温泉の浴室入口には、そう伝わる「源頼朝公の腰掛石」が置かれている。あくまで伝承であって史実の検証ではない。それでも、「草津で浴びて、ここで仕上げる」という動線を、説明板は建久二年の頼朝の話として伝えている。そしてこの沢渡の湯こそ、本記事の主役である硫酸塩泉だ。
硫酸塩泉は、正直、地味な泉質だ。白濁しない。硫黄の匂いも立たない。湯はたいてい無色透明で、写真映えという点では草津や万座に遠く及ばない。ところが群馬でこの泉質を巡っていくと、妙なことに気づく。歴史の物語を背負った湯が、やたらと硫酸塩泉に集中しているのだ。頼朝伝承の沢渡、「四万の病悩を治する霊泉」の神託が伝わる四万、開湯1200年の縁起札を掲げる湯宿、ダム湖に源泉が沈んだ猿ヶ京、戦国時代に石段街が設計された伊香保。偶然にしては、できすぎている。
本記事は、実際に日帰りで入った群馬の硫酸塩泉を、11の温泉地ごとに「歴史→数値」の順で辿る。数値は原則として現地掲示の分析書を一次情報とし、湯使い・料金まで現地で確かめた範囲で書く。なお、草津や万座の湯も泉質名に「硫酸塩」を含むが、あちらは酸性・含硫黄の別世界なので、硫黄泉の比較記事に譲る。ここで扱うのは、石膏・芒硝系の「静かな硫酸塩泉」だ。
- そもそも硫酸塩泉とは|石膏・芒硝・「傷の湯」の読み方
- 沢渡温泉|「草津の仕上げ湯」と頼朝の腰掛石
- 四万温泉|「四万の病悩を治する霊泉」と国民保養温泉地第1号
- 湯宿温泉|三国街道の湯治場と「開湯1200年」の縁起札
- 猿ヶ京温泉|ダム湖に沈んだ湯島温泉と「共有泉湯島」
- 上牧温泉 大峰館|館主直筆「自然の恵みです」
- 水上・仏岩|名前に物語が宿る二湯
- 伊香保温泉|天正4年の石段街と「黄金の湯」
- 尻焼温泉|川底から湧く湯と「尻を焼かれる」名の由来
- 法師温泉|三国峠の手前、明治28年築の浴舎の底から湧く湯
- 笠懸町温泉(みどモスパ)|地下1,600mの掘削記録と、循環の例外「掛け湯は除く」
- 群馬の硫酸塩泉 比較表|pH・メタけい酸・湯使い・料金
- まとめ|歴史で選ぶ群馬の硫酸塩泉
- よくある質問(FAQ)|群馬の硫酸塩泉
- 関連記事
そもそも硫酸塩泉とは|石膏・芒硝・「傷の湯」の読み方
硫酸塩泉は、温泉1kg中の溶存物質が1,000mg以上あり、陰イオンの主成分が硫酸イオン(SO₄²⁻)の療養泉を指す。組み合わさる陽イオンで性格が分かれ、カルシウム主体なら旧称石膏泉(石膏=硫酸カルシウムのこと)、ナトリウム主体なら旧称芒硝泉(芒硝=硫酸ナトリウムのこと)と呼ばれてきた。いまの分析書では「カルシウム・ナトリウム-硫酸塩温泉」のような表記に統一されているが、群馬の湯治場では古い掲示が現役で残っていて、「含食塩石こう硫化水素泉」(沢渡・昭和35年の手書き分析表)や「芒硝性苦味泉」(湯宿・湯本館の分析書)といった旧泉質名を現地で読める。この新旧の名前の変遷を辿れること自体が、歴史の長い泉質である証拠だろう。
「傷の湯」という俗称もこの泉質に付いてまわる。環境省の2014年基準では、硫酸塩泉の浴用適応症としてきりきず・末梢循環障害・冷え性・うつ状態・皮膚乾燥症が挙げられており、この「きりきず」が俗称の由来とされる。ただし泉質固有の創傷治癒エビデンスが確認されているわけではなく、適応症は塩化物泉ともほぼ共通なので、効能で泉質の優劣を語るのは筋が悪い。本記事で書くのは「環境省基準では〜が適応症とされる」という引用までで、効果の断定はしない。体感の記述はすべて個人の感想だ。
浴感でいえば、私は各湯で「キシッと引き締まってから、しっとり残る」と感じることが多かった(個人の感想。施設ごとの体感は各記事に書いた)。派手さはないが、湯上がりの温まりに芯がある。そして白濁しない代わりに、この泉質には雄弁な物的証拠がある——湯口に育つ白い析出物だ。硫酸カルシウム系の結晶は、循環・消毒を挟まないかけ流しの湯口で層状に成長する。本記事に登場する湯の多くで、この「鉱物の年輪」が見られる。
沢渡温泉|「草津の仕上げ湯」と頼朝の腰掛石
中之条町・カルシウム・ナトリウム-硫酸塩・塩化物温泉(旧称でいえば石膏泉系)・pH8.32
沢渡温泉の代名詞は「一浴玉の肌(いちよくたまのはだ)」。古くから「草津の仕上げ湯」と呼ばれ、強酸性の草津湯治で荒れた肌をここで整えた、と伝わる。草津の強酸性(pH2前後)は角質を剥がす方向、沢渡のアルカリ性は角質を緩める方向と、作用の向きが逆だと考えられているのが言い伝えの背景だ。冒頭に書いた頼朝の腰掛石は旅館・龍鳴館の浴室入口にあり、説明板には「草津温泉に入湯した後、当温泉に入浴され」と記されている。830年前を語る伝承と現代の湯治動線が同じ形をしているのが、この温泉地の面白さだ。

日帰りの入口は2つ。共同浴場(300円・9:00〜20:30)は地元の沢渡温泉組合が運営する街にひとつだけの外湯で、あつ湯・ぬる湯の2槽に源泉かけ流し100%。湯口の白い析出物と、浴室に貼られた「浴槽の浮遊物は貴重な湯の華です」の手書き貼り紙が、湯の正体を物語る。龍鳴館(700円)は若山牧水ゆかりの宿で、総檜の浴室と、昭和35年の手書き分析表・平成29年の現代分析書が並ぶ。旧泉質名「含食塩石こう硫化水素泉」から現在の「カルシウム・ナトリウム-硫酸塩・塩化物温泉」へ——57年ぶんの名前の変化を、一度の入浴で読み比べられる。
数値は源泉55.1℃・pH8.32(試験室値)・メタけい酸64.3mg/kg。個人的な満足度は300円の共同浴場が上だった。歴史は龍鳴館、湯力は共同浴場、と使い分けるのが沢渡の正解だ。
四万温泉|「四万の病悩を治する霊泉」と国民保養温泉地第1号
中之条町・カルシウム・ナトリウム-硫酸塩温泉ほか・pH6.5〜8.76
四万(しま)という地名自体が温泉の物語だ。永延3年(989年)、この地を訪れた武将・碓氷貞光が夜の読経中に神託を受け、「四万(よんまん)の病悩を治する霊泉」を授かった——それが地名の由来と伝わる(四万温泉協会の紹介する開湯伝説のひとつで、坂上田村麻呂を起源とする説もある)。その神託の湯とされるのが、温泉街最奥・日向見薬師の参道に建つ共同浴場「御夢想の湯」。入口の暖簾には「四万温泉 發祥の湯」と染め抜かれている。そして昭和29年(1954年)、四万温泉は酸ヶ湯(青森)・日光湯元(栃木)とともに、国が定める国民保養温泉地の全国第1号に指定された。千年前の伝承から戦後の制度まで、「保養の湯」の看板を背負い続けている温泉地だ。

いま日帰りで浴びるなら、まず無料の共同浴場3湯(御夢想の湯・上の湯・河原の湯、9:00〜15:00)。観光地のド真ん中で無料の共同浴場文化を維持している希少例で、入口の「善意の箱」に気持ちを残すのが作法だ。御夢想の湯はpH8.7のカルシウム・ナトリウム-硫酸塩温泉、上の湯・河原の湯は塩化物が前面に出る中性の湯と、3湯で性格が分かれる。じっくり派には、貸切露天「滝見の湯」を持つ山ばと(入浴1,100円+貸切1,100円/組・要予約)。御夢想の湯と同じ「山鳥の湯」系統の源泉を、pH8.76のアルカリ性硫酸塩泉として独り占めできる。
湯宿温泉|三国街道の湯治場と「開湯1200年」の縁起札
みなかみ町・ナトリウム・カルシウム-硫酸塩温泉(分析書に「芒硝性苦味泉」の旧称も)・pH8.0〜8.3
旧三国街道沿い、細い街道に小さな宿が肩を寄せ合う湯宿(ゆじゅく)温泉。湯本館の浴室手前には湯宿温泉縁起を記した古い木札が掛かり、開湯は約1200年前(文徳天皇の御代)・弘法大師ゆかりの湯と伝わる。沼田城主・真田氏ゆかりの武将が戦の疲れを癒したという湯治の逸話も札に残る。三国街道の宿場として旅人を迎え続けた湯だ——開湯1200年の湯に、日帰り受付の終了時刻を気にしながら駆け込むのが現代の旅人である私だが。

湯は対照的な2軒で浴び比べられる。湯本館(600円・11:00〜18:00)は62.7℃の自然湧出源泉をそのままかけ流す熱め・パンチ型。湯口の岩には菊の花のように盛り上がった白い析出物がびっしり育つ。太陽館(700円・11:00〜)は湯宿の共同源泉「窪湯」(湯本館と同系統の芒硝泉)を加水して42℃に整えた入りやすい湯で、掲示に「源泉温度が高いため加水」「加温・循環ろ過・消毒なし」と隠さず書いてあるのが信頼できる。熱い湯で攻めるか、長湯で緩むか。街道の二択だ。
猿ヶ京温泉|ダム湖に沈んだ湯島温泉と「共有泉湯島」
みなかみ町・カルシウム・ナトリウム-硫酸塩温泉ほか・pH7.6〜7.8
猿ヶ京温泉の歴史は、昭和33年(1958年)の相俣ダム建設で湯島温泉と笹の湯が水没したところから始まる。旧温泉地は集団で現在地へ移転し、各旅館が自前の源泉を持つのではなく「共有泉湯島」という共同源泉を引いて使う形式で再出発した。長生館が「湯元」を名乗るのはこの経緯に由来する。浴室には泉質「含食塩芒硝泉(緩和低張性高温泉)」と当時の表記で書かれた縦書きの古い掲示が額装されている。成分分析は昭和34年(1959年)、適応症・禁忌症の決定は昭和36年(1961年)。現行の分析書(平成14年)と並べると、60年以上にわたる湯の同一性と命名の変遷を一枚の壁で辿れる。
日帰りは、宿の2軒と地元の共同浴場の1軒が「5項目完全開示」の優等生だ。長生館(野天風呂のみ500円)は80段の階段を下りた先の「元祖 野天風呂」で、加水・加温・循環・入浴剤・消毒の5項目すべて「使用していません」の掲示。はしば(550円)は農家民宿ながら、塩素を使わない代わりに浴槽の湯を一日おきに全部抜いて洗う運用で、第三者認定「純温泉A」を取得している。どちらも湯口に白い析出物がこんもり育つ、物的証拠つきのかけ流しだ。三つめの猿ヶ京住民センター共同浴場(400円)は、地元の猿ヶ京区が運営する無人の共同浴場で、源泉は長生館と同じ共有泉湯島。受付の掲示は加水・加温・循環ろ過・入浴剤・塩素系薬剤の5項目すべて「していません」(浴槽水を毎日完全入替)で、料金箱に400円を入れて入る。同じ温泉街の猿ヶ京公衆浴場 いこいの湯(300円)は別の源泉「村有1号」(pH7.5・ナトリウム・カルシウム−硫酸塩・塩化物温泉)だが、温泉利用状況の掲示が無いので、かけ流しかどうかは未確認のまま表に載せる。
- 個別 → 猿ヶ京温泉 湯元 長生館 日帰り入浴レポ(野天風呂500円)
- 個別 → 温泉農家民宿はしば(純温泉Aのかけ流しを550円)
- 個別 → 猿ヶ京住民センター共同浴場(共有泉湯島のかけ流しを400円・料金箱の無人浴場)
- 個別 → 猿ヶ京温泉 いこいの湯(村有1号の無人公衆浴場・300円・湯づかい掲示なし)
上牧温泉 大峰館|館主直筆「自然の恵みです」
みなかみ町・ナトリウム・カルシウム-硫酸塩・塩化物温泉・pH7.72
上牧(かみもく)温泉の大峰館(1,000円・90分目安)に、長い開湯伝説はない。代わりにあるのは、現在進行形の営みの記録だ。浴室には館主直筆の木製説明板が掛かる——「この温泉は当館敷地内から湧出した43.3℃の天然です」「加熱はしていません」「薄めていません」「湯量が多いので循環はしていません 自然の恵みです 館主」。公的な5項目掲示も全項目「行っていません」で、手書きと公文書が同じ方向を向いて重なる。敷地内で湧出した湯が加水も加温もされずに浴槽へ注がれ、木枠には硫酸カルシウム系(いわゆる石膏類)の真っ白な結晶が1cmの厚みで層状に育っている。石碑や縁起札だけが歴史ではない。層を重ねた析出物も、立派な年輪だと思う。
水上・仏岩|名前に物語が宿る二湯
みなかみ町・カルシウム(・ナトリウム)-硫酸塩温泉・pH7.6〜8.2
みなかみ町にはもう二湯、名前そのものが物語の硫酸塩泉がある。水上温泉のはずれ、諏訪峡の渓谷沿いのきむら苑「天狗の湯」(1,000円)は、自家源泉を毎分200リットル超もかけ流す混浴の大露天。40度弱のやわらかいぬる湯で、目隠しの塀の向こうから沢の音がずっと届く。仏岩(ほとけいわ)温泉の鈴森の湯(900円・2時間制)は、源泉を施設が「二千万年水」と名づけたカルシウム-硫酸塩温泉(旧称でいえば石膏泉)。33.5℃の低温源泉を加温せずそのまま張った「ぬる湯」槽が本体で、体温に近い湯に首まで沈むと、阿能川の水音だけが聞こえてくる。二千万年という名前の真偽はさておき、湧いたままの源泉100%に浸かれることは掲示が保証している。
伊香保温泉|天正4年の石段街と「黄金の湯」
渋川市・カルシウム・ナトリウム-硫酸塩・炭酸水素塩・塩化物温泉・pH6.4
伊香保の石段街のそばに建つ石碑には、こう刻まれている——天正4年(1576年)、長篠の戦いの翌年に石段街が形成され、湯元から湯を導き、石段の中央に湯樋(湯を流す樋)を伏せて、左右の屋敷に引湯した。「わが国第一号の温泉都市計画」と石碑自身が明記する。450年前のグランドデザインが、ほぼそのまま現代の温泉観光地として機能しているわけで、この泉質の歴史の厚みでは伊香保が群馬の筆頭だろう。
名物「黄金の湯」の正式な泉質名にも、硫酸塩の文字がある。カルシウム・ナトリウム-硫酸塩・炭酸水素塩・塩化物温泉——湧出直後は無色透明で、含まれる鉄(II)イオン7.23mg/kgが空気に触れて酸化すると、あの茶褐色に染まる。「黄金」の色は鉄の色だ。源泉の黄金の湯(総合湯)を各施設が分湯(各施設へ湯を分けて引く仕組み)で使うため、黄金の湯を引く施設ならどこで入っても成分は同じで、メタけい酸181mg/kgは本記事の比較の中で最高値になる。

日帰りの選択肢は役割がきれいに分かれる。石段街の小宿丸本館(500円・13:00〜電話予約制)は加水なし・循環消毒なしのかけ流し(冬季のみ加温)で、黒いドーム状の析出物が名物。源泉地そばの伊香保露天風呂(600円)は「100パーセント源泉かけ流し」の掲示どおり、鮮度で選ぶならここ。石段街の途中の石段の湯(800円)は源泉地から約2km引き湯し、冷めるぶんを加温・注し湯で整えた共同浴場——かけ流しとは呼ばないが、循環はしておらず湯は縁からあふれ続け、それでも湯口に析出物が育つ。鮮度の露天か、洗い場と休憩室の石段の湯か、析出物と歴史の丸本館か。同じ黄金の湯を役割で巡れるのが伊香保の設計だ。
- 個別 → 伊香保温泉 丸本館 日帰り入浴レビュー(メタケイ酸181mg・黄金の湯)
- 個別 → 伊香保露天風呂 日帰り入浴(黄金の湯を600円かけ流し)
- 個別 → 伊香保 石段の湯 日帰り入浴(黄金の湯と洗い場つき共同浴場)
尻焼温泉|川底から湧く湯と「尻を焼かれる」名の由来
中之条町六合(くに)の奥、長笹沢川の川底から湧く湯をせき止めた無料の川風呂で知られる尻焼(しりやき)温泉。名前は、川底から湧く湯にお尻が焼かれるような感覚から、と町の観光協会が伝えています。宿は星ヶ岡山荘と光山荘の2軒、町営の日帰り施設として弁天の湯があります。川の湯そのものには分析書の掲示がなく、数値で語れるのは宿と町営施設が引く源泉です。
星ヶ岡山荘の掲示は昭和62年分析の手書き分析書で、営林署源泉はカルシウム・ナトリウム-硫酸塩・塩化物温泉、泉温55.6℃、溶存物質1.51g/kg、メタけい酸56.2mg/kg。陰イオンは重量比で硫酸イオンが4分の3ほどを占める、カルシウム主体の石膏系です。温泉利用証(2010年発行)には循環なしの完全放流式・加温なし・水道水で加水あり、pH7.9とあります。弁天の湯の根広共有泉は平成30年分析で、同じカルシウム・ナトリウム-硫酸塩・塩化物温泉、泉温49.7℃、pH7.7、溶存物質1.48g/kg、メタけい酸59.1mg/kg。源泉は違っても成分の顔ぶれはほぼ同じで、尻焼の湯が一本の系統であることを数字が語っています。雨で増水して川の湯に入れなかった日の記録は川の湯の記事に。
法師温泉|三国峠の手前、明治28年築の浴舎の底から湧く湯
みなかみ町永井、三国峠の手前で国道17号から山側へ入った一軒宿が法師温泉 長寿館。創業は明治8年(1875年)で、本館・法師乃湯の浴舎(明治28年築)・別館(昭和15年築)の3棟が平成18年に国の登録有形文化財に登録されている。日帰りで男性が入れるのはその浴舎「法師乃湯」だけで、混浴、湯浴み着もバスタオル巻きも不可、浴室への撮影機器の持ち込みは禁止。浴槽は太い丸太で4つに区切られ、奥の2列には湯口がなく、浴槽の底の玉石から湯が湧いてくる足元湧出だ。
長寿館の掲示分析書(令和5年1月調査)では、源泉「旭の湯」はカルシウム・ナトリウム-硫酸塩温泉、泉温42.1℃、pH8.5、溶存物質1.22g/kg、メタけい酸41.9mg/kg。陽イオンはカルシウムが4分の3、陰イオンは硫酸イオンが8割を占める石膏系で、館内に掲げられた昭和32年の検定書では泉質名がそのまま「石膏泉」だった。浴室の掲示は加水・加温・循環ろ過・入浴剤・消毒の5項目すべて「なし」。日帰り1,500円、受付は11:00〜13:30(2026年9月時点)。
笠懸町温泉(みどモスパ)|地下1,600mの掘削記録と、循環の例外「掛け湯は除く」
みどり市笠懸町鹿の市営温浴施設「湯〜トピアみどモスパ」は2026年5月24日開業。市の記者会見資料によれば、旧かたくりの湯(1997年)と大間々老人憩の家(1973年)を統合して新設した建物で、ロビーには源泉を掘ったときのドリルビットと深さごとの土の標本が展示されている。説明板では、掘削は平成6年(1994年)10月に始まり、地下1,000m付近のチャート層(足尾帯の基盤岩・約1億5千万年前)が難所で、地下1,600mまで掘って平成7年(1995年)5月に湯が出る深さに届いたとある。分析書の源泉名が「笠懸町温泉(かたくりの湯)」と旧施設の名前を括弧に残しているので、新しい建物で旧かたくりの湯の源泉を引き継いでいると読める(館内に明記はなく、私の読み)。
みどモスパの館内掲示(令和7年8月14日分析)では、泉質はナトリウム-硫酸塩温泉、泉温37.1℃、pH8.3、溶存物質約2.20g/kg、メタけい酸29.8mg/kg。陽イオンはナトリウムが約91%、陰イオンは硫酸イオンが約72%を占める芒硝系で、比較表の中でカルシウムが泉質名に入らないナトリウム単独の硫酸塩泉はここだけだ。湯使いは加水(源泉湧出量を超過した場合)・加温・循環ろ過・塩素消毒ありで、循環ろ過の行にだけ「掛け湯は除く」の括弧書きがある。本記事の中では沢渡 龍鳴館と並ぶ循環ろ過の施設で、源泉かけ流しの湯ではない。日帰りは市外の大人3時間650円・1日850円(2026年10月時点・現地掲示)。サウナ92℃・水風呂16.5℃(訪問時の温度計目視)が付くので、硫酸塩泉をサウナとセットで使いたい人向け。
群馬の硫酸塩泉 比較表|pH・メタけい酸・湯使い・料金
| 施設(温泉地) | pH | 泉質(代表源泉) | メタけい酸(mg/kg) | 湯使い | 日帰り料金 |
|---|---|---|---|---|---|
| 沢渡温泉 共同浴場 | 8.32 | Ca・Na-硫酸塩・塩化物温泉 | 64.3 | 源泉かけ流し100% | 300円 |
| 沢渡温泉 龍鳴館 | 8.32 | Ca・Na-硫酸塩・塩化物温泉 | 64.3 | 加水・加温なし/循環ろ過あり(フィルターは消毒=掲示) | 700円 |
| 四万温泉 共同浴場3湯 | 6.5〜8.7 | Ca・Na-硫酸塩温泉(御夢想)ほか | 50.8〜142 | 源泉かけ流し(各湯掲示) | 無料(善意の箱) |
| 四万温泉 山ばと(貸切) | 8.76 | Ca・Na-硫酸塩温泉 | 49.5 | 加温のみ・加水循環消毒なし | 1,100円+貸切1,100円/組 |
| 湯宿温泉 湯本館 | 8.3 | Na・Ca-硫酸塩温泉(芒硝系) | 64.2 | かけ流し(自然湧出) | 600円 |
| 湯宿温泉 太陽館 | 8.0 | Na・Ca-硫酸塩温泉(窪湯) | 60.6 | 加水あり・加温循環消毒なし | 700円 |
| 猿ヶ京温泉 長生館 | 7.6 | Ca・Na-硫酸塩温泉(共有泉湯島) | 54.3 | 5項目すべて「使用していません」 | 野天500円 |
| 猿ヶ京温泉 はしば | 7.8 | Na・Ca-硫酸塩・塩化物温泉 | 74.5 | 5項目すべてなし(純温泉A・隔日換水) | 550円 |
| 猿ヶ京住民センター共同浴場 | 7.6 | Na・Ca-硫酸塩温泉(共有泉湯島・長生館と同一源泉) | 54.3 | 5項目すべて「していません」(毎日完全入替) | 400円 |
| 猿ヶ京温泉 いこいの湯 | 7.5 | Na・Ca-硫酸塩・塩化物温泉(村有1号) | 70.9 | 利用状況の掲示なし(不明) | 300円 |
| 上牧温泉 大峰館 | 7.72 | Na・Ca-硫酸塩・塩化物温泉 | 49.2 | 5項目すべて「行っていません」 | 1,000円(90分) |
| 水上温泉 きむら苑 天狗の湯 | 7.6 | Ca・Na-硫酸塩温泉(自家源泉) | 43.7 | かけ流し・加水加温なし(毎分200L超) | 1,000円 |
| 仏岩温泉 鈴森の湯 | 8.2 | Ca-硫酸塩温泉(二千万年水) | 29.9 | ぬる湯は加温もなしの源泉100% | 900円(2時間) |
| 伊香保温泉 丸本館 | 6.4 | Ca・Na-硫酸塩・炭酸水素塩・塩化物温泉 | 181 | 加水なし・冬季加温・循環消毒なし | 500円(予約制) |
| 伊香保露天風呂 | 6.4 | 同上(総合湯) | 181 | 100%源泉かけ流し(掲示) | 600円 |
| 伊香保 石段の湯 | 6.4 | 同上(総合湯) | 181 | 引き湯約2km・加温・注し湯/循環なし | 800円 |
| 尻焼温泉 星ヶ岡山荘 | 7.9 | Ca・Na-硫酸塩・塩化物温泉(営林署源泉) | 56.2 | 完全放流式・加温なし・加水あり(温泉利用証) | 900円(12:30〜14:30) |
| 法師温泉 長寿館 | 8.5 | Ca・Na-硫酸塩温泉(旭の湯) | 41.9 | 掲示5項目すべて「なし」・足元湧出 | 1,500円(受付11:00〜13:30) |
| 尻焼温泉 弁天の湯(町営) | 7.7 | Ca・Na-硫酸塩・塩化物温泉(根広共有泉) | 59.1 | 利用状況の掲示なし(不明) | 町外500円 |
| 笠懸町温泉 みどモスパ(みどり市) | 8.3 | Na-硫酸塩温泉(笠懸町温泉) | 29.8 | 加水(超過時)・加温・循環ろ過(掛け湯は除く)・塩素消毒 | 市外850円(1日)/3時間650円 |
まとめ|歴史で選ぶ群馬の硫酸塩泉
- 物語ごと湯に浸かりたい → 沢渡(頼朝の腰掛石と一浴玉の肌)・伊香保(天正4年の石段街)
- 千年級の湯治場の空気を無料で → 四万の共同浴場3湯(發祥の湯の暖簾と善意の箱)
- 街道の湯治場で静かに → 湯宿(開湯1200年の縁起札・熱めの湯本館と入りやすい太陽館)
- 5項目完全開示のかけ流しを → 長生館・はしば・大峰館(掲示が5項目すべて「なし」と言い切る三軒)
- ぬる湯でじっくり → 鈴森の湯(33.5℃の「二千万年水」をそのまま)・天狗の湯(40度弱の大露天)
- 析出物という「物的証拠」を眺めたい → 湯本館(菊花状)・丸本館(黒いドーム)・大峰館(1cmの層)
白濁も硫黄臭もない代わりに、硫酸塩泉には伝承と析出物という二つの年輪がある。群馬にはまだ入っていない硫酸塩泉もある。該当する湯に入り次第、この記事の比較表へ追記していく。歴史の湯を巡りたくなったら、まず沢渡の300円から始めるのがいい。強い刺激の湯が欲しくなったら、同じ「硫酸塩」の名を持つ酸性硫黄の世界——群馬の硫黄泉 日帰り比較へ。ぬるさで選ぶなら群馬のぬる湯 日帰り12選が詳しい。
よくある質問(FAQ)|群馬の硫酸塩泉
Q. 群馬で硫酸塩泉に日帰り入浴できる温泉地はどこですか?
A. 実際に入って確認できた範囲では、沢渡温泉・四万温泉・湯宿温泉・猿ヶ京温泉・上牧温泉・水上温泉(天狗の湯)・仏岩温泉・伊香保温泉・尻焼温泉・法師温泉・笠懸町温泉(みどり市のみどモスパ)の11温泉地です。施設ごとの数値は本文の比較表にまとめています。
Q. 硫酸塩泉とはどんな泉質ですか?
A. 温泉1kg中の溶存物質が1,000mg以上で、陰イオンの主成分が硫酸イオンの療養泉です。カルシウム主体は旧称「石膏泉」、ナトリウム主体は旧称「芒硝泉」と呼ばれ、環境省の2014年基準では浴用適応症としてきりきず・末梢循環障害・冷え性・うつ状態・皮膚乾燥症が挙げられています(効果には個人差があります)。
Q. 硫酸塩泉が「傷の湯」と呼ばれるのはなぜですか?
A. 環境省基準の浴用適応症に「きりきず」が挙げられていることが由来とされる俗称です。泉質固有の創傷治癒効果が実証されているわけではないため、本記事では効果の断定はしていません。
Q. 無料で入れる群馬の硫酸塩泉はありますか?
A. 四万温泉の共同浴場3湯(御夢想の湯・上の湯・河原の湯)が無料です(入口の「善意の箱」への寄付が作法)。有料では沢渡温泉 共同浴場の300円が最安です。
Q. 「草津の仕上げ湯」とは何ですか?
A. 沢渡温泉の古くからの呼び名です。強酸性の草津湯治で荒れた肌を、アルカリ性の沢渡の湯で整えたと伝わることに由来します。建久二年(1191年)に源頼朝が草津で湯入りし、後に沢渡に入浴したという伝承も残っています(史実の検証ではなく言い伝えです)。
▼ 湯宿・猿ヶ京・上牧・水上・仏岩・法師のあるみなかみ町を、ふるさと納税で応援する
本記事の11温泉地のうち6つ(湯宿・猿ヶ京・上牧・水上・仏岩・法師)は、群馬・みなかみ町にあります。みなかみ町のふるさと納税には、町内の宿・飲食店・施設で使える「MINAKAMI HEART TICKET(感謝券)」や特産品の返礼品があり、寄付で町を応援しながら次の温泉旅にそのまま活かせます(1万円寄付してHEART TICKETが届くまでの体験談はこちら)。
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▼ 沢渡・四万のある中之条町を、ふるさと納税で応援する
沢渡温泉と四万温泉は、群馬・中之条町にあります。中之条町のふるさと納税は、寄付1万円以上で「感謝券」がもらえ、町内の宿や飲食店・施設で使えます。寄付で町を応援しながら、次の温泉旅にそのまま活かせます。
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ジョーモ
群馬の源泉かけ流し日記



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