受付の15時少し前に滑り込んで脱衣所へ。湯に体を沈めてからの10分ほどは、広い岩風呂を独り占めだった。群馬・老神温泉(おいがみおんせん)の「穴原湯 東秀館(とうしゅうかん)」は、敷地に自前の源泉を持つ宿。日帰り入浴は大人1,000円で、自家源泉「老神1号泉」のアルカリ性単純温泉に入れる。湯口には黄色い析出物が盛り上がり、ほのかな卵の匂いと白い湯の華が、この湯の素性を語っていた。日曜の午後に立ち寄ってきた。

基本データ|老神温泉 東秀館の日帰り入浴(立ち寄り湯)・料金・泉質
| 施設名 | 穴原湯 東秀館(とうしゅうかん) |
|---|---|
| 所在地 | 群馬県沼田市利根町穴原1151(老神温泉) |
| 電話 | 0278-56-3024 |
| 日帰り入浴(立ち寄り湯) | 受付15:00〜(繁忙期は受け付けない場合あり・要事前確認) |
| 入浴料金 | 大人1,000円(現金のみ) |
| 源泉名 | 老神1号泉(自家源泉) |
| 泉質 | アルカリ性単純温泉(アルカリ性低張性高温泉) |
| 源泉温度/pH | 源泉50.7℃/pH8.44(溶存物質0.54g/kg) |
| 利用状況 | 加水なし・加温なし・循環ろ過なし・消毒なし(成分表掲示より) |
| 浴室 | 男女別。大浴場「仙涯乃湯」(温度違いの岩風呂)+野天風呂 |
| 訪問 | 日曜の午後 |
※泉質・利用状況は浴室の温泉成分等掲示表(2026年6月時点)で確認。料金・受付時間は変わることがあるので、繁忙期や時間ギリギリのときは電話で確認してから向かうのが安全です。
浴室|温度違いの岩風呂「仙涯乃湯」と野天風呂

男湯の大浴場は「仙涯乃湯(せんがいのゆ)」。岩で仕切られた湯船が連なり、入って右が熱め、左と奥はぬるめと、湯加減が分かれているのが特徴だ。熱い湯でしゃきっとして、ぬるい湯で長く浸かる——という行ったり来たりができる。源泉が50.7℃と高温なので、岩で区切って差をつけているのだろう。窓の外は老神の緑で、明るく開放感のある浴室だった。

もう一方には野天風呂がある。屋根がかかった岩風呂で、竹垣の向こうにもみじの緑が迫る。石灯籠が据えられた庭の風情で、外気にあたりながらクールダウンするのにちょうどよかった。露天で湯と外気を行き来するのが好きな身には、内湯と野天の組み合わせがありがたい。
自家源泉かけ流しの物的証拠|黄色い析出物の湯口と、掲示の「していません」

東秀館の湯が本物だと分かるのは、湯口を見たときだ。岩の湯口には黄色っぽい析出物が厚く盛り上がり、そこから源泉がとめどなく注がれている。溶存物質0.54g/kgと成分は薄い湯なのに、これだけの析出が育つ——濃さではなく、止めずに流し続けてきた時間が結晶をつくる。源泉をそのまま掛け流している湯でしか見られない光景だ。黄色みは、硫黄分の名残だろうか。

掲示の裏付けもはっきりしている。浴室の温泉成分等掲示表の「温泉利用状況」欄には、加水・加温・循環ろ過・入浴剤・消毒のすべてに「天然掛け流しなので〜していません」と書かれていた。源泉は敷地内の井戸から汲み上げる自家源泉で、源泉50.7℃の湯を、薄めず沸かさず回さず注いでいる。湯口から浴槽までの距離と岩での区切りで、入りやすい湯加減に落ち着いていた。
湯の体感|卵臭と白い湯の華、すべりのよいアルカリ性単純温泉

湯に入ると、ほんのり卵のような匂いが鼻に届き、白い湯の華がゆらゆらと舞っていた。肌をなでるとつるりとすべる。掲示も「すべりのよい温泉」と書いている。ただ、同じアルカリ性単純温泉でも、かつて通った中国地方の俵山(pH9.8)や美又(pH9.9)のローションのような強いヌルつきとは違う。pH8.44のここは、つるりと感じる程度のおとなしいすべりだ。そのぶん角がなく、のぼせにくく長く浸かっていられる(熱い湯のほうはのぼせやすいので短めに、水分補給を)。最初の10分を独りで過ごせたこともあって、静かに整った。
アルカリ性単純温泉(療養泉)の適応症・禁忌、そしてかつての硫化水素泉
東秀館の老神1号泉は、溶存物質こそ0.54g/kgと少ない(単純温泉の枠)が、泉温が50.7℃と25℃以上あるため、療養泉(単純温泉)に分類される。浴室の掲示(平成16年)には、一般的適応症として「神経痛・筋肉痛・関節痛・五十肩・うちみ・くじき・慢性消化器病・痔疾・冷え性・病後回復期・疲労回復・健康増進」が、禁忌症として急性疾患(発熱時)・重い心臓病・妊娠中(とくに初期と末期)などが挙げられている。これらは掲示の記載をそのまま紹介したもので(適応症・禁忌の表記は分析の年次で変わる)、効果や感じ方には個人差があります。

面白いのは、館内に飾られた古い分析書だ。昭和41年(1966年)のもので、泉質「石膏土類硫化水素泉」、性状「無色透明にして硫化水素臭」とある。かつてこの湯は硫黄泉として分析されていたのだ。分析書には「現在の成分とは異なる」旨の注記も添えられ、現行(平成16年)はアルカリ性単純温泉——硫黄泉には分類されていない。源泉そのものが変わったのか、分析の基準が変わったのかは、二枚の分析書だけでは分からない。それでも、湯口の卵臭がかつての硫黄分をかすかにしのばせる。
老神温泉・自家源泉の東秀館|湯めぐりの一軒に
老神温泉は、片品川(片品渓谷)沿いに宿が並ぶ古い湯治場。赤城山の神と日光・男体山の神が戦い、矢傷を負った赤城の神が地に刺した矢から湯が湧き、その湯で傷を癒して相手を追い返した——「神を追い返した(追い神)」が転じて「老神」になったと伝わる(沼田市・老神温泉観光協会による)。宿ごとに源泉が違うのが老神の面白さで、東秀館は自家源泉「老神1号泉」を引く一軒。同じ老神でも、源泉かけ流しの硫黄泉に入れるぎょうざの満洲 東明館とは湯の表情が違う。両方をはしごして泉質を見比べるのも、この温泉地ならではの楽しみ方だ。
アクセス・基本情報|沼田ICから約20〜25分

東秀館は群馬県沼田市の利根町穴原、老神温泉の一角にある。関越道・沼田ICから国道120号を尾瀬方面へ進み、老神温泉の入口で分岐して約20〜25分(道路状況による)。日帰り入浴は受付15:00〜、大人1,000円(現金のみ)。受付時間が午後からと短く、繁忙期は立ち寄り入浴を受け付けないこともあるので、当日電話(0278-56-3024)で確認してから向かうと確実だ。
まとめ|半世紀かけ流され続けた、自家源泉のすべり湯
派手な濃さで売る湯ではない。けれど東秀館の湯は、自家源泉を薄めも沸かしも回しもせず注ぎ続け、成分の薄い湯にもかかわらず湯口に黄色い析出物を育てている。温度違いの岩風呂で熱い湯とぬるい湯を行き来し、午後の早い時間なら独り占めも狙える。老神温泉で「正直なすべり湯」を一つ選ぶなら、候補に入れて損はない一軒だ。
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よくある質問
Q. 宿泊しなくても日帰りで入浴できますか?
A. できます。日帰り入浴(立ち寄り湯)は受付15:00〜、大人1,000円(現金のみ)です。受付時間が午後からと短く、繁忙期は受け付けないこともあるので、電話(0278-56-3024)で確認してから向かうと安心です。
Q. 源泉かけ流しですか? 加水や循環は?
A. 浴室の温泉成分等掲示表に「加水・加温・循環ろ過・消毒のいずれも天然掛け流しなのでしていません」と明記された、自家源泉「老神1号泉」の源泉かけ流しです(アルカリ性単純温泉・源泉50.7℃・pH8.44)。
Q. どんな湯ですか? 硫黄泉ですか?
A. 現在の泉質はアルカリ性単純温泉で、つるりとすべる肌ざわりの湯です。ほのかに卵のような匂いがあり、館内には昭和41年に「硫化水素泉」と分析された古い分析書も飾られています(現行は硫黄泉には分類されていません)。肌の敏感な方は、長く浸かりすぎず様子を見ながら入ってください(効果・感じ方には個人差があります)。
老神温泉・源泉かけ流しの湯、こちらも。



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