先にお断りしておきます。この記事に、肝心の湯船の写真は一枚もありません。
理由は単純で、きむら苑の日帰り大露天は混浴だから。人がいる湯にカメラは向けられないし、向けるべきでもない。だから今回は、外観と、露天へ辿り着くまでの道のりと、自分の体に残った湯の感触だけで書きます。
逆に言えば——写真で見せられない湯ほど、自分の足で確かめる価値がある。水上温泉(みなかみ町)のはずれ、諏訪峡の渓谷沿いに、自家源泉を毎分200リットル超も垂れ流しにしている一軒宿があります。

露天へ辿り着く道
受付で日帰り入浴(大人1,000円・現金のみ)を告げると、案内されるのは本館ではなく、外へ出て渓谷側へ下りる道。ここからが、きむら苑のいちばんの“演出”です。
木々が頭上を覆う細道を下りていくと、沢にかかる木の通路の先に、杉板の湯小屋が見えてきます。すぐ下を流れる沢の音が、近づくほど大きくなる。観光地の喧騒からたった数分歩いただけなのに、一気に山ふところへ分け入った気分になります。

湯小屋は年季の入った板張りで、まわりは目隠しの塀。建物の角をまわると、

「男性用入口 / Entrance for Men」。

この湯小屋の扉から先は、言葉だけで伝えます。 着替えこそ男女別ですが、湯船はひとつ=混浴。人がいる以上、ここから先にレンズは向けられません。まずは扉の向こうのリアルを見てから、湯そのものへ進みましょう。
混浴のリアル(はじめての人へ)
「混浴」と聞いて身構える人のために、見たままを書いておきます。
- 着替えは男女別。扉も「男性用入口」「女性用入口」で分かれています。一緒になるのは湯船だけ
- この日の女性は湯あみ着(湯浴み用のワンピース)を着用。タオル巻きや湯あみ着での入浴が一般的です
- 客層は地元の常連が中心で、みんな静かに長湯している。ジロジロ見るような空気は皆無
- 平日の日中でもそれなりに人がいる=人気の証。「貸切でのんびり」を狙うなら、開館直後(10時)か、天気の崩れた日が狙い目かもしれません
混浴大露天のお湯(言葉で伝える)
扉を抜けて目に飛び込むのは、案内によれば約100㎡という、とにかく広い岩造りの露天。木々に囲まれ、沢の音がそのまま響いてくる、開放感のある一枚です。
肝心の湯は、40度弱の柔らかいぬる湯。湯口の近くこそ少し温かいものの、広い湯船の中ほどは体温に近いくらいまで下がっていて、つい長居したくなります。事実、まわりの常連さんは水や飲み物を手元に置いて、思い思いの場所に陣取って動かない。「ここで長居しよう」と、入った瞬間に決まる温度でした。肩まで沈むと、目隠しの塀の向こうから沢の音がずっと届いていて、ただぼんやり聞いていられます。
湯は無色透明。肌ざわりはとげがなく、すっと体になじむ柔らかさです。泉質は硫酸塩泉(硫酸イオンが主成分の温泉のこと)。
正直に書くと、平日の昼過ぎだったので「空いているだろう」と高をくくっていたら、男性7人・女性1人ほどがすでに寛いでいて、ちょっと驚きました。人が多いせいか、半乾きの洗濯物のような匂いが少し気になります。混んだ空間にこもった空気のせいでしょう。湯そのものは湯口から源泉が絶え間なく注がれ、縁から惜しげもなく溢れていく正真正銘のかけ流し。湯の鮮度に不満はありませんでした。
泉質データ
きむら苑が誇るのは、ほかから引かない自家源泉100%。公表記録(2009年の分析)によると、こんな湯です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 泉質 | カルシウム・ナトリウム-硫酸塩温泉(低張性弱アルカリ性) |
| 源泉名 | 水上温泉「天狗の湯」(自家源泉) |
| 泉温 / pH | 40.1℃ / 7.6 |
| 湧出量 | 約200〜230L/分(動力揚湯) |
| 溶存物質 | 1,030mg/kg(1g/kgを超え療養泉に該当) |
| 成分総計 | 1,040mg/kg(メタけい酸43.7mg) |
| 利用形態 | 源泉かけ流し・加水加温なし・塩素消毒なし |
※数値は公表記録(2009年分析)に基づきます。湧出量は施設公称200リットル/分析書記載230リットルと幅があり、現地脱衣所の最新掲示も撮影できなかったため、分析年や数値が更新されている可能性があります。最新値は施設にご確認を。
硫酸塩泉は、環境省の基準ではきりきずや末梢循環障害、冷え性などが浴用の適応症とされるタイプの温泉です(個人差があり、効果を保証するものではありません)。「美人の湯」と呼ばれることもありますが、これは俗称。かけ流し好きには、毎分200リットル超を流しっぱなしという事実だけで、十分すぎるごちそうです。
アクセス・料金・営業
- 住所:群馬県利根郡みなかみ町小日向326/TEL 0278-72-5851
- アクセス:諏訪峡沿い。JR水上駅から車5分(約2km)、関越道・水上ICから車5分。無料駐車場あり
- 日帰り料金:大人1,000円・小人600円(現金のみ)。タオルは別売(フェイス100円・バスタオルレンタル200円)
- 営業時間:10:00〜16:30(施設公称。媒体により17:00表記もあるため最終受付は要確認)
- 定休:隔週の木曜(休館日は月替わり)。2026年6月は11日・25日(第2・第4木曜)が休館で、第1・第3木曜は営業。月で変わるので、訪問前に受付の掲示か電話で確認を

なお、ネット上のデータベースの多くは「木曜定休」と書いていますが、受付のホワイトボードで確認した限り、休むのは隔週の木曜だけ。これを知らずに第1・第3木曜まで避けるのは、もったいない話です。
まとめ:写真で見せられない、から行く価値がある
源泉を惜しみなく流しっぱなしの混浴大露天、40度弱で長湯したくなるぬる湯、沢の音と木々の緑。この“言葉でしか伝えられない部分”こそが、きむら苑の本体です。混浴のハードルさえ越えれば、水上でこれだけ鮮度の高いかけ流しに、たった1,000円で浸かれます。
写真で確かめられないなら、自分の体で確かめにいく。秘湯好きなら、その一手間を惜しまないはずです。
なお、この日の昼は同じみなかみ町のみなかみホルモン亭で、常連の定番・ネギ味噌ラーメンを食べてから来ました。湯の前後の腹ごしらえにどうぞ。
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