土曜日の昼前に、群馬県の西のはずれ、下仁田町(しもにたまち)の山あいへ向かった。目当ては下仁田温泉 清流荘(せいりゅうそう)。日本秘湯を守る会の一軒宿で、日帰りで入れるのは露天風呂だけ。名物の檜の内湯には入れないと聞いて、正直あまり期待せずに向かった。
結論から言うと、土曜の昼にもかかわらず露天は完全に貸切だった。竹林に囲まれた岩風呂を、最初から最後までひとりじめ。しかもこの湯、群馬でもめったにお目にかかれない炭酸の冷鉱泉で、湯船の隣には「源泉そのまま」の茶色く冷たい湯がたたえられていた。温泉好きとしては、かなり面白い一軒だったので記録しておく。
※この記事は日帰り入浴(立ち寄り湯)の体験記です。清流荘は宿泊もできますが、日帰りで入れるのは露天風呂のみ(内湯「薬師の湯/観音の湯」は宿泊者専用)。料金など最新の運用は変わることがあるので、訪問前に施設へ確認を。
清流荘へのアクセスと日帰り入浴の基本情報
下仁田温泉 清流荘は、上信越自動車道・下仁田ICから車でおよそ15分。栗山川(くりやまがわ)沿いの山の中にぽつんと建つ一軒宿で、コンビニも何もない谷あいにある。
道沿いに「下仁田温泉 清流荘 入口」の白い看板が出ているので、それを目印に細い坂道を下りていく。

駐車場は20台・無料(先着)。車を停めたら、そこから鉄製の橋を歩いて渡って浴舎へ向かう。橋のたもとには石碑とマリーゴールドの花。この橋を渡るひと手間が、すでに秘湯の入口だった。

日帰り入浴のデータ(2026年6月時点・実訪問)
- 料金:大人1,000円(タオル付の可能性あり。受付で確認を)
- 受付:午前11時ごろから(最終受付の時刻は揺れがあるので、午後早めの到着が安全)
- 入れるのは露天風呂のみ(内湯は宿泊者専用)
- 駐車場:20台・無料
- 定休:月に数回の不定休(非公表)。宿泊が満室だと日帰りを断られることもあるので、行く前に電話(0274-82-3077)で「その日やっているか・日帰りで入れるか」を確認するのが確実
- 支払い:現金が無難(電子決済の可否は事前確認を)
公式サイトはあるが「http://」始まりでSSL(通信の暗号化)に未対応のため、ブラウザによっては警告が出る。情報自体は生きているので、神経質にならず参考程度に。
山あいの一軒宿という佇まい
橋を渡って宿の方へ進むと、木造の母屋が木立の中に現れる。6月だったので、玄関わきには青いアジサイが満開。灯籠や軒先のたたずまいが、いかにも「秘湯の宿」然としていて気持ちがいい。

敷地は公称でおよそ2万平方メートル(約7,000坪)。山の斜面と川を抱き込んだ広い宿で、庭には小さな池もある。池のまわりは苔と緑に覆われ、灯籠が一基。山の宿らしい、静かな庭だ。

清流荘は日本秘湯を守る会の会員宿で、自家飼育のジビエ(猪・鹿・雉)料理が名物――これは宿泊者向けの楽しみだ。今回は日帰りなので、ここでは湯の話に進む。
露天風呂「仙境の湯」を、週末に貸切で
日帰りで入れる露天は、男湯が「仙境の湯(せんきょうのゆ)」、女湯が「白玉の湯」。岩をくぐった先に、屋根(東屋)付きの岩風呂が広がる。

竹林を背に、地元産の青みがかった銘石「三波石(さんばせき=三波川流域でとれる青緑色の石)」を組んだ岩組みに、灯籠が一基。すぐ脇には栗山川が流れていて、鳥の声と水音しか聞こえない。

そして冒頭にも書いたとおり、土曜の昼前だというのに他のお客さんはゼロ。脱衣スペースも湯船も最初から最後まで独り占めだった。週末は宿泊の稼働が高く「貸切になりにくい」とも聞いていたので、これは運がよかった。平日の午前〜昼ならさらに貸切に当たりやすいはずだ。
当ブログでは「ひとりで静かに浸かれる湯」を勝手に推しているのだが、清流荘は設備の派手さではなく”独り占めできる確率の高さ”で効いてくるタイプ。週末でこれなら、平日はまず期待してよさそう。
主役は「2つの湯船」― 加温した湯と、源泉そのままの”茶色い冷たい湯”
清流荘の露天がただの岩風呂と違うのは、湯船が2つあること。これがこの宿のいちばん面白いところだった。
- 加温した湯船――入るための温かい湯。といっても、この日は40℃弱でややぬるめだった。熱すぎず、のんびり長湯できる湯加減。今回はこちらに浸かった。
- 源泉そのままの湯船(約19℃)――加温していない、源泉に近い”生”の湯。透明感のある茶色で、手を入れるとひんやり冷たい。長く浸かるには冷たすぎて今回は入らなかったが、火照った体を冷ますにはむしろ夏向きだと思う。真夏に汗をかいて来たら、温かい湯とこの冷たい源泉槽を行き来するのが気持ちよさそうだ。
なぜ源泉の湯がこんなに冷たいかというと、清流荘の源泉「清流の湯」は、湧き出したときの温度が13.7℃しかない冷鉱泉(れいこうせん=源泉の温度が25℃未満の、加温しないと入れない冷たい鉱泉のこと)だから。源泉そのままの槽が約19℃あったのも、13.7℃の源泉が初夏の外気にあたためられてその程度まで上がった、という冷たさだ。だから片方は40℃前後に温めて入れるようにし、もう片方は源泉の姿のまま”見て・触れて”楽しむ、という二段構えになっている。露天で湯から上がって外気で体を冷ますのが好きな自分には、この”温→冷”を一か所で完結できる構成は、理屈抜きに面白かった。
この茶色こそが、清流荘の泉質を物語っている。岩肌を流れ落ちる源泉のまわりには、クリーム色〜茶褐色の析出物(せきしゅつぶつ=温泉成分が固まって岩などにこびりついたもの)がびっしり。

成分表によれば、この湯には鉄(鉄(II)イオン 5.83mg/kg)が含まれている。鉄を含んだ源泉は、空気に触れて酸化すると赤茶色に変わる――岩にこびりついた析出物のうち、茶褐色の部分はこの鉄の酸化、白っぽい〜クリーム色の部分は炭酸カルシウムによるものとみられる。源泉槽が透明な茶色をしているのも、おそらく鉄分が効いている。「源泉そのもの」を目で見て確かめられる露天は、そう多くない。
おもしろいのは、加温した湯船のほうは透明だったこと。これも鉄の仕業だ。地中では鉄は無色のまま溶けているが、空気に触れて酸化すると茶色く濁る。加温槽は循環ろ過(フィルターで湯を漉す方式)を通すため、その茶色くなった鉄分が漉し取られて透明になる――とみられる。一方、源泉そのまま槽はろ過せず空気にさらすので茶色いまま。つまり、茶色いほうがより“源泉に近い”姿というわけだ。温めて透明な湯と、冷たくて茶色い源泉。同じ湯の二つの顔を並べて見られるのが、この露天の面白さだ。
泉質:群馬では珍しい炭酸泉(二酸化炭素泉)の冷鉱泉
清流荘の湯が面白いのは、見た目だけでなく中身(成分)も珍しいからだ。脱衣所には温泉成分の掲示がきちんと出ていたので、要点を書き写しておく。


- 泉質:含二酸化炭素-カルシウム・ナトリウム-炭酸水素塩冷鉱泉(中性低張性冷鉱泉)
- 源泉名:清流の湯/源泉温度 13.7℃(冷鉱泉)/pH 6.0(中性)
- 成分総計 2.66g/kg
- 遊離二酸化炭素(炭酸ガス)1,120mg/kg
- 炭酸水素イオン(HCO₃⁻)1,010mg/kg、ナトリウム192mg/kg、カルシウム168mg/kg、メタけい酸55.1mg/kg、鉄(II)イオン5.83mg/kg
注目は遊離二酸化炭素が1,120mg/kgもあること。温泉では、溶け込んだ炭酸ガスが1,000mg/kg以上あると「二酸化炭素泉(遊離した炭酸ガスを一定量以上ふくむ湯のこと)」に分類される。清流荘はこの基準をしっかり超えていて、しかも炭酸水素塩(重曹の仲間)にカルシウム・ナトリウム、さらに鉄まで加わる。
以前、大分の筌の口温泉(新清館)で、鉄分を含んで金茶色に濁った炭酸混じりの湯に浸かったことがある。源泉が空気に触れて茶色く染まるところは、清流荘の透明な茶色の源泉槽と同じだ。炭酸と鉄を含む冷鉱泉が群馬の山奥で、しかも日帰り1,000円で味わえる――そう考えると、この一軒の値打ちが腑に落ちる。清流荘のような二酸化炭素泉は全国でも数が少なく、群馬ではなおさら珍しい。
脱衣所には、年季の入った手書きの木看板も掛かっていて、「日本でも数少ない含二酸化炭素・炭酸水素塩泉です」と、この源泉への思い入れがにじんでいた。冷たくて低温で、そのままでは入りにくい源泉を、それでも大事に使い続けている――そういう一軒だ。

湯づかいは正直に:加温あり・一部循環・塩素消毒
良い湯だからこそ、湯づかいは正確に書いておきたい。掲示の成分表と日本温泉協会の利用証には、こう明記されている。
- 加水:なし
- 加温:あり(源泉温度が低いため)
- 循環・ろ過:あり(放流一部循環ろ過式=お湯を一部はかけ流しつつ、一部は循環・ろ過して使う方式。源泉が低温で湧出量も少ないため)
- 消毒:あり(塩素系。県の行政指導による)
つまり清流荘の加温槽は、厳密には「源泉かけ流し」ではない。13.7℃の冷たい源泉を入浴できる温度まで温めるには、加温と循環が避けられないからだ。ここは「秘湯=かけ流し」と思い込みで書かず、事実のまま伝えておく。
そのうえで清流荘がうまいのは、加温した湯で温まりつつ、すぐ隣の”源泉そのまま槽”で生の冷鉱泉を体感できること。循環の湯と、源泉の湯。その両方を並べて見せてくれる露天は貴重だ。
衛生面では、2025年9月の水質検査でレジオネラ属菌は「不検出」(掲示の水質検査結果書より)。循環利用の湯で気になる部分も、きちんと管理されているのが確認できる。

効能(適応症)について
効能は施設の掲示にある範囲で、引用のかたちで紹介する。清流荘の湯は遊離二酸化炭素が基準値(1,000mg/kg)以上のため療養泉(成分が一定以上含まれる温泉。ここでは二酸化炭素泉)に該当し、掲示の温泉分析書には浴用の一般的適応症として次が挙げられていた。
きりきず、末梢のひえ症、神経痛、筋肉痛、関節痛、五十肩、運動麻痺、関節のこわばり、うちみ、くじき、慢性消化器病、痔の痛み、冷え症、病後回復期、疲労回復、健康増進(掲示「温泉分析書/浴用の適応症」より)

これらはあくまで温泉一般の適応症として基準で定められているもので、効果には個人差がある。また温泉には禁忌症(入浴を避けたほうがよい状態)もあり、一般には急性の病気・発熱時・重い心臓病や活動性の結核などが該当するとされる。入浴前にはかけ湯をして、のぼせない範囲で。体調に不安があるときは無理をしないこと。なお、泉質や効能の読み方はこちらの記事でも詳しく整理している。
まとめ:こんな人に、清流荘の日帰りは刺さる
- 静かに、ひとりで湯に浸かりたい人――週末でも貸切に当たる確率が高い。設備の豪華さより”独り占め”を取りたいタイプに向く(→ 群馬の貸切・独湯で入れる日帰り温泉7選)
- 珍しい泉質を体で確かめたい人――群馬では数少ない炭酸(二酸化炭素泉)の冷鉱泉。加温した湯と、源泉そのままの透明な茶色の冷たい湯を隣り合わせで体感できる(とくに夏は、冷たい源泉槽が火照った体に効きそう)
- 秘湯の雰囲気が好きな人――鉄の橋を渡り、竹林の岩風呂へ。栗山川の音と鳥の声だけの空間
逆に、内湯やサウナ・洗い場の充実、かけ流しの鮮度をいちばんに求める人には、やや物足りないかもしれない(日帰りは露天のみ・湯は加温循環)。そこを承知のうえで、「冷鉱泉を温めて守り続ける一軒宿」を楽しみに行く湯だと思う。
下仁田の市街地には、孤独のグルメの聖地として知られる「餃子タンメン一番」がある(今回の昼食もここで取った)。さらに足を延ばせば、無料バイキングで有名なこんにゃくパーク(甘楽町。帰りに高崎方面へ少し戻る形になる)も。グルメの食べ歩きは、追って別記事で詳しくまとめたい。
よくある質問(FAQ)
Q. 清流荘は日帰り入浴できますか?料金は?
A. できます。日帰りは露天風呂のみで、料金は大人1,000円(2026年6月時点・実訪問)。受付は午前11時ごろから。内湯(薬師の湯・観音の湯)は宿泊者専用です。
Q. 内湯にも入れますか?
A. 日帰りは露天のみで、内湯には入れません(宿泊者専用)。
Q. 源泉かけ流しですか?
A. 厳密には「かけ流し」ではありません。源泉が13.7℃と低温のため加温あり・放流一部循環ろ過・塩素消毒あり(加水はなし)。ただし露天には加温していない源泉そのままの湯船もあり、生の冷鉱泉に触れられます。
Q. 混んでいますか?貸切で入れますか?
A. 平日の午前〜昼は貸切になりやすいです(筆者は土曜の昼前で完全貸切でした)。ただし宿泊が満室だと日帰りを断られることもあるため、事前に電話(0274-82-3077)で当日の営業と受け入れを確認するのが確実です。



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