みなかみ町の湯檜曽(ゆびそ)温泉、林屋旅館の風呂に、日曜の午前に入った。ここは2回目になる。払ったのは900円。浴室は、アーチ形の天井から浴槽の底までタイルで埋まっている。
源泉かけ流しを追いかけている私が最初に確かめるのは、湯をどう扱っているかだ。公式サイトは「加温、加水、循環は一切なし」と書く。館内の分析書によると、湯は3つの源泉を混ぜたもので、大浴場の湯口で45.0℃。私が浴室で見たのは、湯口から途切れずに落ちる湯と、浴槽の縁から床へあふれ続ける湯だった。
公式サイトの「日帰り温泉」の欄は「現在休止中」になっている(2026年10月時点)。私が入れた経緯は、次の章に書いた。

林屋旅館とは|大正11年創業の湯宿。日帰り入浴は公式では「現在休止中」
湯檜曽温泉は、みなかみ町のJR上越線 湯檜曽駅の近くにある温泉地。駅の名前は「湯檜曽」、宿の住所と公式サイトは「湯桧曽」と書く。読みはどちらも「ゆびそ」だ。
林屋旅館について、公式サイトはこう書いている。「湯桧曽温泉、清風かおる湯宿 林屋旅館は大正11年創業の老舗の温泉宿です。」大正11年は1922年。100年を超える宿だ。昭和初期には歌人の与謝野晶子と与謝野鉄幹も泊まり、晶子直筆の掛け軸が残っている、とも書かれている。

公式サイトによると、浴室は大浴場(収容15名・主に男性用)と小浴場(収容5名・主に女性用)の2つで、男女の時間入れ替え制。貸切専用の浴場はない。どちらも内湯で、露天風呂はない。
日帰り入浴について。公式サイトの「日帰り温泉」の欄は「現在休止中」だ(2026年10月時点)。私は日曜の午前に直接訪ねて、入浴できるかを宿の人に聞いた。入れるとのことで、900円を現金で払った。
これは私が行った日の話で、いつ行っても受けてもらえるとは限らない。行く前に電話(0278-72-3508)で確かめてほしい。
湯づかい|公式は「加温、加水、循環は一切なし」「温度の異なる源泉で温度調節」
湯づかい(湯をどう扱っているか)について、公式サイトの言葉はこうだ。「当館の温泉は日本温泉協会認定の源泉掛け流しの温泉です。加温、加水、循環は一切なし」。温めること(加温)も、水で薄めること(加水)も、浴槽の湯を戻して使い回すこと(循環)もしていない、という意味になる。
では、湯の温度はどうやって合わせているのか。公式サイトのFAQに答えがある。「温泉は全て24時間源泉掛け流しとなっており、温度の異なる源泉で温度調節をしております。」水を足すのではなく、熱さの違う源泉を使って温度を合わせている、ということだ。
館内の温泉分析書を見ると、源泉は1つではない。湯は薬師の湯・音松の湯・林屋の湯という3つの源泉の混合泉だ。3つとも「掘削自噴」(掘った井戸から、ポンプを使わず自分の力で湧くこと)で、利用量は毎分80.2リットル。試料を採った場所は「浴槽(大)への流入口」、つまり大浴場の湯口で、そこでの泉温が45.0℃だった。

湯口は壁から出た1本の管。管には白いものがこびりついていて、湯の成分が固まったもののように見える。湯は途切れずに落ちていた。そして、浴槽の縁を越えた湯が、床のタイルを薄く覆って流れていく。入る前から、あふれている。その量に驚いた。

館内では、加水・加温・循環・消毒を書いた利用状況の掲示を探したが、見当たらなかった。
加水・加温・循環の読み方と、日本温泉協会の用語は、源泉かけ流しの見分け方にまとめてある。
泉質データ|単純温泉(弱アルカリ性)・湯口で45.0℃・pH8.0
館内に掲示されていた温泉分析書(調査 令和6年10月7日・一般財団法人群馬県薬剤師会環境衛生試験センター)から写す。

| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 源泉 | 湯檜曽温泉の3源泉(薬師の湯・音松の湯・林屋の湯)の混合泉 |
| 採水地 | 浴槽(大)への流入口 |
| 泉質 | 単純温泉(低張性弱アルカリ性高温泉) |
| 泉温 | 45.0℃(調査時の気温23℃) |
| 利用量 | 毎分80.2リットル(3源泉とも掘削自噴) |
| pH値 | 8.0(現地)/7.91(試験室) |
| 溶存物質(ガス性のものを除く) | 0.42g/kg |
| 成分総計(ガスも含めた合計) | 0.42g/kg |
| メタけい酸 | 62.4mg/kg |
| 知覚的試験 | 無色澄明 |
溶存物質(湯に溶けている成分の合計。ガスは含めない)は0.42g/kg。陽イオン(プラスの電気を帯びた成分)122.1mg、陰イオン(マイナスの電気を帯びた成分)230.3mg、非解離成分(イオンにならずに溶けている成分)66.3mgを自分で足すと418.7mgで、分析書の値と合う。
単純温泉は、溶存物質が1g/kgに届かず、湧いた湯が25℃以上あるときに付く泉質名だ。療養泉(りょうようせん=治療の目的にも使える温泉として国が基準を決めているもの)に入る。カッコの中は湯の性格を表す分類で、「低張性」は体液より濃度が低い湯、「弱アルカリ性」はpH7.5以上8.5未満、「高温泉」は42℃以上という意味になる。
泉質と源泉の書き方が、出どころによって少し違う。公式サイトは「アルカリ性単純泉」、浴室の入口が男女に分かれる部屋にある木の板は「アルカリ性単純温泉」と書いている。令和6年の分析書はpH8.0で「弱アルカリ性」。「アルカリ性」と呼ぶのはpH8.5以上なので、この記事は分析書の表記に合わせた。同じ板は源泉名を「林屋源泉・薬師の湯混合泉」と書く。源泉の数と名前も、分析書のほうを採った。

分析書の右半分は別表で、環境省の通知にもとづく適応症(その泉質が向くとされる症状)と禁忌症(入浴を避ける場合)が載っている。単純温泉の泉質別適応症は「自律神経不安定症、不眠症、うつ状態。」と書かれている。泉質別禁忌症は「該当項目なし。」だ。温泉全般の一般的禁忌症には「病気の活動期(特に熱のあるとき)」「少し動くと息苦しくなるような重い心臓又は肺の病気」などが並ぶ。
木の板と、次の章の昭和9年の分析表にも効能の列挙がある。効能について、この記事が写したのは、令和6年の別表の言葉だけだ。読み方は温泉の効能はどこまで本当?に書いた。
昭和9年の分析表|分析の日付は90年違っても「無色澄明」「単純温泉」
館内には、もう1枚、分析表が額に入って掛かっている。題は「湯元 林屋旅館 温泉分析表」。日付は「昭和九年六月拾四日」、末尾に「内務省 東京衛生試験所」とある。

読める範囲で写すと、湯は「無色澄明」で「微弱アルカリ性の反応を示す」「単純温泉に属します」。
令和6年の分析書も、知覚的試験(色や匂いを人の感覚で確かめる試験)の欄は「無色澄明」、泉質は弱アルカリ性の単純温泉だ。昭和9年は1934年、令和6年は2024年。分析の日付が90年離れた2枚に、同じ言葉が並んでいる。
もう1つ。昭和9年の表の所有者の欄にある名前は「音松」。令和6年の分析書に出てくる源泉の1つが「音松の湯」だ。
浴室|天井も底もタイル。体感43度くらいの、匂いのない湯

公式サイトは浴室をこう紹介している。「昭和初期そのままの造りの浴室は清流ゆびそ川の緑を望み明るく清潔でアーチ天井・モザイクタイルのお風呂は懐かしい風情を感じる芸術品です。」
天井はかまぼこのような丸い形で、モザイクタイル(小さなタイルを敷きつめて模様にしたもの)がびっしり張ってある。浴槽の底は、場所ごとに柄の違うタイル。奥の壁には、スキージャンプの絵がタイルで描かれている。

湯に浸かりに来たのに、しばらくは天井ばかり見ていた。この日は最初から最後まで私ひとり。口を開けて見上げていても、誰にも見られずに済んだ。
湯は澄んでいて、底のタイルの柄がそのまま見える。匂いは感じなかった。分析書でも、遊離硫化水素(ゆで卵のような匂いのもとになるガス)は、湯1kgあたり0.0mgだ。肌ざわりは、つるつる、すべすべ。体感で43度くらいの、熱めの湯だ。

聞こえるのは、湯口から落ちる湯の音と、川の音。
湯上がりは、汗がなかなか引かなかった。肌はすべすべしていた。
洗い場には、シャンプー、リンス、泡の洗顔フォーム、固形石けんがあった。館内の木の板には「浴用上の注意」として、「十分にかけ湯をして入浴のこと」「長時間の入浴は避ける」「入浴後は温泉の成分を洗い流さない」の3つが書かれている。分析書の別表の「入浴上の注意」には、「高齢者、高血圧症若しくは心臓病の人又は脳卒中を経験した人は、42℃以上の高温浴は避けること。」ともある。
小浴場|緑の濃淡の底と、角の岩

こちらは小浴場。以前、このブログを始める前に入ったことがある。そのときの湯は、体感で41度くらいだった。底は緑の濃淡、縁は黒。角に岩があり、その上の管から湯が落ちる。大浴場とは雰囲気がまるで違う。

館内|書「林屋旅館のいわれ」。湯の湧く音が名前になった話

館内に、宿の名前の由来を書いた書が掛かっている。題は「林屋旅館のいわれ」。

谷川のほとりの河原を歩いていて、せせらぎに混じる音を聞き、その音のもとを探していくと、「岡の上にビソビソと泉の湧きいづるを見る」。湯のかたわらに庵(いおり=小さな家)を作り、「ビソビソと湯の湧くさまをとりて湯桧曽庵とぞ名づけたり」。やがて旅人を泊める宿を作り、林の中にあったので林屋旅館と名づけた、と続く。
末尾の署名は「林屋旅館初代 雲の仙人」、日付は「天和元年」。天和元年は西暦1681年に当たる。公式サイトが書く創業は大正11年(1922年)で、書の日付とは241年離れている。
書には「この地あたりを湯桧曽とぞ名づけたり」ともある。湯の湧く音が、庵の名前になり、土地の名前になった、と書は伝えている。
行き方|公式の案内は湯檜曽駅から徒歩約5分。私は車で宿の駐車場へ
公式サイトの案内では、JR上越線の湯檜曽駅から徒歩約5分。駅から歩ける湯は車なしで行く群馬の日帰り温泉にまとめている。
私は車で行き、宿の駐車場に停めた。高速道路は関越自動車道の水上ICで降りる。公式サイトのFAQによると、冬は水上ICから湯桧曽の温泉街まで散水道路(雪をとかす水が出る道)で、スタッドレスタイヤかチェーンを勧めている。
同じみなかみ町の水上温泉 天野屋は、加水・加温なし、循環・消毒なしを館内の掲示で確かめた湯だ。みなかみと隣の川場村の湯はみなかみの日帰り温泉4選にまとめた。帰りに水上温泉街で食べた舞茸ピザはラ・ビエール(水上)に書いた。
まとめ|タイルを見上げながら、3つの源泉を混ぜた湯に浸かる
林屋旅館の湯は、公式サイトの言葉で「加温、加水、循環は一切なし」。分析書では3つの源泉の混合泉で、大浴場の湯口で45.0℃。泉質は単純温泉(低張性弱アルカリ性高温泉)で、昭和9年の分析表にも「単純温泉」とある。浴室は、天井から底までタイル。
向いている人
- 湯口から落ち続け、縁からあふれ続ける湯に浸かりたい人
- 公式サイトが「昭和初期そのままの造り」と書くタイル風呂を見たい人
- 分析書や由来の書など、館内の掲示を読むのが好きな人
- 熱めの湯が好きな人
向かない人
- 露天風呂に入りたい人(浴室は内湯が2つ)
- ぬるめの湯にゆっくり浸かりたい人(大浴場は、私が入った日は体感で43度くらい)
- 行けば必ず入れる日帰り湯を探している人(公式サイトの日帰り温泉は「現在休止中」。行く前に電話を)
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よくある質問
Q. 林屋旅館は日帰り入浴できる?料金は? A. 公式サイトの「日帰り温泉」の欄は「現在休止中」です(2026年10月時点)。私は日曜の午前に直接訪ねて宿の人に聞き、900円を現金で払って入浴できました。いつ行っても受けてもらえるとは限らないので、行く前に電話(0278-72-3508)で確かめてください。
Q. 林屋旅館は源泉かけ流し? A. 公式サイトは「当館の温泉は日本温泉協会認定の源泉掛け流しの温泉です。加温、加水、循環は一切なし」と書いています。温度は「温度の異なる源泉で温度調節をしております。」とのことです。館内の分析書(令和6年10月)には、薬師の湯・音松の湯・林屋の湯の3源泉の混合泉と書かれています。私が入った日は、浴槽の縁から湯が床へあふれていました。加水・加温・循環・消毒を書いた利用状況の掲示は、館内では見当たりませんでした。
Q. 泉質は? A. 令和6年10月の分析書で、単純温泉(低張性弱アルカリ性高温泉)です。大浴場の湯口で泉温45.0℃、pH8.0、溶存物質0.42g/kg、メタけい酸62.4mg/kg。公式サイトは「アルカリ性単純泉」、館内の木の板は「アルカリ性単純温泉」と書いていますが、この記事は分析書の表記に合わせています。
Q. 湯は熱い?匂いはある? A. 大浴場は体感で43度くらいの熱めの湯でした。分析書では、大浴場の湯口で45.0℃です。匂いは感じませんでした。肌ざわりはつるつる、すべすべでした。
Q. 露天風呂はある? A. ありません。浴室は大浴場と小浴場の2つで、どちらも内湯です。公式サイトによると男女の時間入れ替え制で、貸切専用の浴場はありません。
Q. 電車で行ける?駐車場は? A. 公式サイトの案内では、JR上越線の湯檜曽駅から徒歩約5分です。私は車で行き、宿の駐車場に停めました。公式サイトによると、冬は水上ICから湯桧曽の温泉街まで散水道路で、スタッドレスタイヤかチェーンを勧めています。
基本データ表
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 施設名 | 林屋旅館(はやしやりょかん) |
| 所在地 | 群馬県利根郡みなかみ町湯桧曽124 |
| 電話 | 0278-72-3508 |
| アクセス | JR上越線 湯檜曽駅から徒歩約5分(公式サイトの案内)/車は関越自動車道 水上IC・宿の駐車場あり |
| 日帰り入浴 | 公式サイトは「現在休止中」(2026年10月時点)。行く前に電話で確認を |
| 料金 | 900円(2026年10月時点・私が払った額) |
| 支払い | 私は現金で払った |
| 浴室 | 大浴場(収容15名)・小浴場(収容5名)。どちらも内湯・男女の時間入れ替え制(公式サイト)。露天風呂なし |
| 泉質 | 単純温泉(低張性弱アルカリ性高温泉)・湯口で45.0℃・pH8.0(令和6年10月の分析書) |
| 源泉 | 薬師の湯・音松の湯・林屋の湯の混合泉(3源泉とも掘削自噴)・「加温、加水、循環は一切なし」(公式サイト) |
| 公式 | http://www.yubiso-hayashiya.jp/ |



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