伊香保温泉の「黄金の湯」は、ひとつの湯です。複数の源泉を混ぜた「総合湯(混合泉)」を、伊香保の各施設が分けて引いています。だから、源泉地の露天で浴びても、石段街の途中の共同浴場で浴びても、旅館の内湯で浴びても、分析書の数字は同じ。pH 6.4、鉄(II)イオン 7.23 mg/kg、メタけい酸 181 mg/kg。
それなのに、入ってみると同じ湯に思えない。色の濃さが違う。鉄の匂いの出方が違う。湯口の析出物の育ち方まで違う。
この記事では、私が日帰りで入った黄金の湯の3湯、伊香保露天風呂(600円)・石段の湯(800円)・丸本館(500円)を、「同じ湯をどう張っているか」で並べます。数値はすべて現地掲示の温泉分析書から拾い、料金や営業時間は公式ページ(2026年9月時点)で確認しました。丸本館の立ち寄り湯だけは公式サイトに載っていないため、電話で確認した内容です。

先に早見表|3湯の料金・時間・湯の張り方
| 伊香保露天風呂 | 丸本館 | 石段の湯 | |
|---|---|---|---|
| 種別 | 源泉地の露天(浸かる専用) | 旅館の内湯(立ち寄り湯) | 石段街の共同浴場(内湯+洗い場) |
| 日帰り料金 | 大人600円・子ども300円 | 大人500円・子ども250円 | 大人800円(渋川市民500円)・小人/高齢者/障害者400円(渋川市民250円)・未就学児無料 |
| 営業時間 | 4〜9月 9:00〜18:00/10〜3月 10:00〜18:00(入場は終了30分前まで) | 立ち寄り湯は13:00〜(電話予約制・訪問時の案内) | 10:00〜20:00(最終入場19:30) |
| 定休日 | 第1・第3木曜(祝日は営業) | ― | 第2・第4火曜(祝日の場合は翌日) |
| 湯の張り方 | 掲示「100%源泉かけ流し」。あつ湯・ぬる湯の2槽 | 加水なし・循環ろ過なし・消毒なし/冬季のみ加温(6項目掲示) | 引き湯(約2km)・加温・注し湯あり/循環なし |
| 洗い場 | なし(シャワー・カランなし) | あり(シャワー2基) | あり(カラン約6か所) |
| 駐車場 | 河鹿橋駐車場(無料・約20台)から徒歩5分 | 専用5台(徒歩2分・要事前確認) | 無料・約10台(坂沿いで停めづらい) |
| 電話 | 0279-72-2488 | 0279-72-2031 | 0279-72-4526 |
| 私が入った日 | 土曜9時過ぎ | 水曜13時 | 土曜10時ごろ(露天と同じ日) |
料金・時間は伊香保露天風呂と石段の湯が渋川市公式ページ、丸本館は公式サイトに立ち寄り湯の記載がなく、電話案内の値(2026年5月時点)です。石段の湯は券売機でクレジットカード・交通系電子マネー・コード決済が使えます。
黄金の湯とは|茶色は硫黄ではなく、鉄の酸化
伊香保温泉には「黄金(こがね)の湯」と「白銀(しろがね)の湯」の2つの湯がありますが、渋川伊香保温泉観光協会によると、もともと伊香保の温泉は黄金の湯だけでした。白銀の湯は近年湧出が確認された無色透明の湯で、この記事では扱いません(私が入っていないためです)。
黄金の湯の泉質名は「カルシウム・ナトリウム-硫酸塩・炭酸水素塩・塩化物温泉(中性低張性温泉)」。分析書(平成29年5月30日・群馬県薬剤師会衛生試験センター)の主な数値はこうです。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 源泉名 | 総合湯(混合泉) |
| pH | 6.4(中性) |
| 泉温 | 41.2℃ |
| 鉄(II)イオン Fe²⁺ | 7.23 mg/kg |
| メタけい酸 | 181 mg/kg |
| 硫酸イオン/炭酸水素イオン/塩化物イオン | 284/275/146 mg/kg |
| 溶存物質 | 1.18 g/kg |
| 遊離硫化水素 | 0.00 mg/kg(検出なし) |
| 湧出量 | 4,627 L/分(伊香保の集中管理源泉の合計) |
ポイントは2つ。遊離硫化水素は0.00 mg/kgなので、あの茶色は硫黄の色ではありません。鉄(II)イオン 7.23 mg/kg が空気に触れて酸化した色です。もうひとつ、分析書の知覚試験(分析した時点での見た目・におい・味の記録)は「無色透明・僅かに茶色の浮遊物あり」。湧いた瞬間の黄金の湯は透明で、茶色は湯船で生まれています。
なお鉄(II)イオン 7.23 mg/kg は、療養泉の「含鉄泉」の基準(総鉄20 mg/kg以上)には届きません。色も匂いもはっきり出るのに、泉質名としての含鉄泉ではない。この湯の妙なところです。
同じ数字の湯を、3つの場所がそれぞれの事情で張っている。ここから先はその3通りです。源泉地に近い順に並べました。
1. 伊香保露天風呂(600円)|源泉地の露天、湯が湧いた場所にいちばん近い

365段の石段街を上りきった先、紅葉の名所・河鹿橋のそばに無料駐車場(約20台)があり、そこから歩いて5分。源泉地と飲泉所の先に、竹塀で囲まれた入口が現れます。黄金の湯を、この3湯のなかで湧いた場所にもっとも近いところで浴びられるのがここです。
浴場入口には「この温泉は100パーセント源泉かけ流しの天然温泉です」の掲示。浴槽はあつ湯とぬる湯の2槽で、体感はあつ湯が41℃ほど、ぬる湯が38℃ほど。源泉の41.2℃とあつ湯の体感がほぼ同じでした。

あつ湯で火照らせて外気で一拍冷ます、という露天派の私の定番がそのままできる湯です。私が入った土曜の朝は、同じ日に入った石段の湯よりはっきり茶褐色が濃く出ていました。湯口には析出物がびっしり(他のお客さんがいて撮れなかったので、言葉で記録しておきます)。この金色がかった茶褐色は、大分・九重の筌の口(うけのくち)温泉の共同浴場を思い出す色でした。
知っておきたいのは、洗い場がないこと。シャワーもカランもなく、公式にも「洗い場はございません」と明記されています。石鹸で洗う湯ではなく、かけ湯をして浸かる湯です。髪や体を洗いたければ、この後に出てくる石段の湯と組み合わせることになります。
土曜9時過ぎで先客は7名ほど。源泉地の名物露天だけあって、独り占めは期待しないほうがいいです。
→ 詳しくは 伊香保露天風呂 日帰り入浴|黄金の湯を600円かけ流し
2. 丸本館(500円)|旅館の立ち寄り湯、6項目の掲示と湯口のドーム

石段街の上のほうの角地に立つ、全8部屋・木造4階建ての小さな旅館です。立ち寄り湯は電話予約制で、訪問時は「13時から受付」と案内されました(0279-72-2031)。ただし玄関先に「黄金の湯 源泉掛け流し/お1人500円」の立ち寄り湯の看板が出ていることがあり、出ていれば予約なしでも入れます。3湯で最安の500円ですが、手間はいちばんかかります。私のときは浴室を40分の貸切で使う形でした(看板にも「40分 貸切可」とあります)。
浴室は1階に男女各1、タイル張りの4〜5名サイズの内湯だけ。露天はありません。その代わり、浴室入口に「温泉法施行規則第6条(温泉の成分等の掲示)改正に伴う追加表示項目について」と題した掲示があり、浴場名を含めて6項目、湯使いが全部書いてあります。
| 項目 | 丸本館の掲示 |
|---|---|
| 浴場名 | 男湯 |
| 加水の状況 | 加水してません |
| 加温の状況 | 外気温が低いときに加温してます |
| 循環・ろ過状況 | 循環ろ過装置は使用してません |
| 入浴剤の有無 | 入浴剤は使用してません |
| 消毒処理の状況 | 毎日完全に浴槽温泉を換え十分清掃しているため消毒はしてません |
冬季だけ加温、それ以外は何も足していない。浴室には「冬季は加温をしております。時間により温度が上下いたしますがご了承ください。」の手書き貼り紙もありました。

そして湯口。浴槽の縁から、真っ黒〜こげ茶色のドーム状の析出物が鍾乳石のように育っていて、そこから木製の樋を通って茶色の湯がドバドバ落ちてくる。何十年も同じ場所に源泉が流れ続けた結果としか思えない造形で、3湯のなかで析出物を見るならここです。
浴室で支配的だったのは鉄の匂い。室内にこもるぶん、露天で嗅いだ記憶より強く感じました(別の日の比較です)。
→ 詳しくは 伊香保温泉 丸本館 日帰り入浴レビュー|メタケイ酸181mg・黄金の湯
3. 石段の湯(800円)|引き湯2kmを加温して整えた、洗える共同浴場

石段街の途中、石段沿いに建つ渋川市の共同浴場です。源泉地から約2km引いてくる間に湯が冷めるため、加温と注し湯(冷めたぶんを補うために湯を足すこと)で温度を保っているとのこと。体感は40℃ほどで、手すり側の下から温かい湯が足されていました。
それでも湯は浴槽の縁から絶えずあふれていて、ろ過して使い回す循環の湯ではない。冒頭の写真のとおり、ライオンの湯口には析出物がしっかり育っています。2km引いて加温・注し湯までしている湯の湯口に析出物が育つのは、ろ過して使い回す湯ではなく、源泉が通り続けている証拠です。

露天にはないカラン約6か所の洗い場があり、髪も体もしっかり洗えます(丸本館にもシャワーは2基ありますが、共同浴場として洗い場が並ぶのはここです)。休憩室も2フロアあって、1階は伊香保の街並みを見渡す眺望、2階は畳で飲食可(アルコール不可)。湯上がりに休んでもう一度入る、という滞在型の使い方ができるのはここだけです。
私が入った土曜の朝は、露天と同じ日なのに鉄の匂いは薄く、色もそこまで濁っていませんでした。同じ湯でも、空気に触れて酸化が進む度合いで表情が変わるようです。
10時の開館前に着くと常連が2人、開館時には8人ほどの行列。ここも独り占めは難しい湯です。
→ 詳しくは 伊香保 石段の湯 日帰り入浴|黄金の湯と洗い場つき共同浴場
同じ湯なのに違って見える理由
3湯を回って分かったのは、黄金の湯の「黄金」は湯船で作られている、ということです。分析書の知覚試験は「無色透明」。鉄が空気に触れて酸化する時間と量で、色も匂いも変わります。
- 源泉地の露天は、湧いた場所のすぐそばで張っている(掲示は「100%源泉かけ流し」。加温の有無は掲示に書かれていません)。私が入った日は同じ日の石段の湯より茶褐色が濃く、湯口の析出物もびっしりでした
- 丸本館は内湯。室内にこもるぶん鉄の匂いが強く感じられ、湯口には何十年ものと思える析出物がドーム状に育っています
- 石段の湯は約2kmの引き湯を加温して張っている。露天と同じ日なのに色は薄く、匂いも穏やかでした。それでも湯口に析出物は育つ
「どこが本物か」ではなく、同じ本物が場所の事情で違う顔をしている。もっとも、石段の湯の色が薄かったのはその日の話です。黄金の湯は酸化の進み具合で表情が変わるので、別の日に行けば逆かもしれません。同じ源泉でも一期一会、と書いておくのが正確だと思います。
回り方|「露天で浸かって、石段の湯で洗う」
3湯すべて石段街とその上の源泉地にあり、車を1か所に置いて歩いて回れます。私が実際にやった順番はこうでした。
- 朝、伊香保露天風呂(4〜9月は9時開場)。河鹿橋の無料駐車場に車を置き、源泉地の露天で黄金の湯にどっぷり浸かる。洗い場はないので、ここは浸かるだけ
- 10時、石段の湯。石段街を下りながら共同浴場へ。カランの洗い場で髪も体も洗い、休憩室でひと息
- 丸本館は13時枠。私は別の日(水曜)に回りましたが、立ち寄り湯の受付が13時からというだけなので、朝の露天と石段の湯のあとに昼を挟んで13時に丸本館、と同じ日に3湯回ることもできます。時間を合わせる必要があるのは丸本館だけです
駐車場は、河鹿橋駐車場(無料・約20台)が露天まで徒歩5分、石段の湯の無料駐車場は約10台で坂沿いに停めづらく、丸本館の専用駐車場は5台ほど(要事前確認)。混む日は周辺の市営駐車場に置いて、石段を上りながら向かうのが無難です。
湯上がりに水沢まで足を延ばすなら、水沢うどんの田丸屋や、青竹打ちの中華そば・わたりやが車で近いです。
この記事に入れていない黄金の湯
伊香保には他にも黄金の湯を引く日帰り施設や、立ち寄り湯を受け付ける旅館があります。この記事は私が実際に入った3湯だけを並べたもので、たとえば日帰り施設の「黄金の湯館」は未訪です(渋川伊香保温泉観光協会のサイトでは2026年9月時点で臨時休業中の表記でした)。入ったら、この記事に足します。
よくある質問(FAQ)
Q. 伊香保の黄金の湯に日帰りで入れる場所はどこですか?
A. 私が入った範囲では、源泉地の露天「伊香保露天風呂」(大人600円)、石段街の共同浴場「石段の湯」(大人800円・渋川市民500円)、旅館「丸本館」の立ち寄り湯(大人500円・13:00〜・電話予約制、訪問時の案内)の3湯です。3湯とも同じ総合湯(混合泉)を引いています。
Q. 3湯の黄金の湯は同じお湯ですか?
A. はい。伊香保の黄金の湯は複数の源泉を混ぜた「総合湯」を各施設が分けて引いており、分析値は pH 6.4・泉温41.2℃・鉄(II)イオン 7.23 mg/kg・メタけい酸 181 mg/kg で3湯共通です。違うのは張り方で、露天は掲示「100%源泉かけ流し」、丸本館は冬季のみ加温、石段の湯は約2kmの引き湯を加温・注し湯で整えています(いずれも循環はしていません)。
Q. 黄金の湯の茶色は硫黄ですか?
A. いいえ。分析書の遊離硫化水素は 0.00 mg/kg(検出なし)で、茶色は鉄(II)イオン 7.23 mg/kg が空気に触れて酸化した色です。分析書の知覚試験は「無色透明・僅かに茶色の浮遊物あり」で、湧いた瞬間は透明です。なお鉄 7.23 mg/kg は療養泉「含鉄泉」の基準(総鉄20 mg/kg以上)には届きません。
Q. 洗い場があるのはどこですか?
A. 石段の湯にカラン約6か所の洗い場があります。伊香保露天風呂は洗い場がなく(シャワー・カランなし)、浸かる専用です。丸本館の内湯にはシャワーが2基あります。露天で浸かってから石段の湯で洗う、という回り方が自然です。
Q. 丸本館の日帰り入浴は予約が必要ですか?
A. 訪問時の案内では電話予約制で、立ち寄り湯の受付は13:00からでした(0279-72-2031)。玄関先に立ち寄り湯の看板(黄金の湯 源泉掛け流し/お1人500円)が出ていれば予約なしでも入れますが、公式サイトには立ち寄り湯の記載がないため、確実に入るなら行く前に電話で確認してください。
Q. 駐車場はありますか?
A. 伊香保露天風呂は河鹿橋駐車場(無料・約20台)から徒歩5分、石段の湯は無料駐車場が約10台(坂沿いで停めづらい)、丸本館は専用駐車場が5台ほど(徒歩2分・要事前確認)です。混む日は周辺の市営駐車場が無難です。
まとめ|ひとつの湯を、三通りで
黄金の湯は、伊香保にひとつしかない湯です。その湯を、湧いた場所の露天で、街なかの共同浴場で、旅館の内湯で浴びる。数字が同じだからこそ、色の濃さや鉄の匂いや析出物の育ち方に、場所ごとの事情が出る。伊香保の日帰りは、その違いを見に行く日帰りです。
- 源泉地の露天に浸かるなら伊香保露天風呂(600円):掲示「100%源泉かけ流し」。洗い場はない
- 析出物を見るなら丸本館(500円):電話予約制の内湯。冬季のみ加温の6項目掲示
- 洗えるのは石段の湯(800円):引き湯を加温した共同浴場。休憩室つき
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