サウナで限界まで蒸されて、水風呂に肩まで沈む。あの瞬間、頭の片隅で小さな声がしないだろうか。「これ、心臓に悪くないか?」と。
私は毎回している。熱いサウナから冷たい水への急降下を自分の意思でやっておいて、水風呂の中で自分の心配をするのだから世話がない。
その積年の疑問に、2026年、日本温泉気候物理医学会雑誌に掲載された論文がまっすぐ答えてくれた。結論を先に書くと、健康な若い男性では、サウナ後に短時間(1分)の水風呂に入っても、40℃のシャワーで済ませた場合と比べて血管への悪影響は確認されなかった。ただし「水風呂の方が血管にもっと良い」という上乗せ効果も確認されなかった。この二枚腰の結果が、実に正直で面白い。今回はこの論文を、群馬のサウナで実際に交代浴を回している一人として読んでいく。
※本記事は公開された研究論文の紹介であり、効果を保証するものでも医学的助言でもない。持病のある方は医師に相談してほしい。
論文が調べたこと|86℃サウナ×17℃水風呂のガチ比較試験
出典を先に明記しておく。
- 小芝裕也・前島悦子(大阪体育大学大学院)「サウナ入浴と冷水浴を組み合わせた温冷交代浴が動脈スティフネスに及ぼす影響:ランダム化比較クロスオーバー試験」日本温泉気候物理医学会雑誌 89巻2号 51-56(2026年)
「温冷交代浴」は、いわゆる交互浴・温冷浴のこと。サウナ→水風呂→外気浴のループ、サウナーが日常的にやっているあれである。
研究のデザインはこうだ。健康な若い男性11名(平均21.3歳・全員サウナ経験者)が、次の2パターンを日を空けて両方体験する。
- サウナ入浴:86℃のサウナ10分 → 40℃のシャワー1分 → 休息5分、を3セット
- 温冷交代浴:86℃のサウナ10分 → 17℃の水風呂1分 → 休息5分、を3セット
違いは「シャワーか、水風呂か」の一点だけ。同じ人が両方やって比べる「クロスオーバー試験」なので、体質の個人差が結果を歪めにくい。脱水の影響を取り除くため、全員が入浴前から入浴中に500mLの水を飲む決まりになっている。飲水量まで揃えるあたりが実験の丁寧なところだ。
測ったのは動脈スティフネス(血管の硬さのこと)。baPWVという指標——腕と足首で脈の伝わる速さを測るもので、血管が硬いほど速く伝わる——を、入浴前・直後・30分後の3回測定している。血管の硬さは心血管疾患の発症予測に使われる指標なので、「水風呂は心臓に悪いのか?」という疑問を数字で見に行く設計になっている。
結果|水風呂を足しても血管指標は悪化しなかった(そして上乗せもなかった)
結果は明快だった。
- どちらの入り方でも、入浴30分後に血管の硬さ指標(baPWV)は有意に低下した(p=0.034)
- 低下の程度に、シャワーと水風呂の差はなかった(入浴方法の差 p=0.914)
- 収縮期血圧(上の血圧)も、両方とも30分後に下がった
つまり、「17℃の水風呂に1分×3回沈んでも、40℃のシャワーと比べて血管指標が悪化することはなかった」。冷水で血圧が急上昇して血管に負担がかかるのでは——という水風呂への疑念に対して、少なくともこの条件では、心配された悪影響は数字に出なかったわけだ(なお測定は入浴前・直後・30分後の3点で、入水中の瞬間的な血圧変動を測った研究ではない)。
一方で、サウナーとしては都合の悪い事実も同じ表に載っている。水風呂を足したからといって、血管指標がより大きく改善することもなかった。「ととのいの深さは血管データに現れなかった」と言い換えてもいい。
ではあの気持ちよさは何なのか。それは別の研究の担当分野で、「ととのう」状態の脳波を調べた研究(Chang et al., PLoS One 2023)では、リラックス状態に関連するシータ波やアルファ波の発現が報告されている。血管には差が出ず、脳には何かが起きているらしい。あの多幸感の正体が血管の若返りではなかったとしても、私は明日も水風呂に入る。
群馬の水風呂で答え合わせ|16℃の壁と23℃の周回
論文のプロトコルを眺めていて、見覚えがあるなと思った。私が普段やっている入り方と、ほぼ同じ構成なのだ。
論文の「17℃の水風呂1分」にいちばん近い実体験は、太田の安眠の湯だった。92℃のタワーサウナから体感16℃の水風呂へ、そして露天の外気浴——この一連の導線が壺湯エリアで完結する。16℃前後だと1分が体感的にちょうど「壁」で、論文の設定時間には身体的な説得力がある。

一方、渋川のスカイテルメの水風呂は「100%天然地下水掛け流し」で体感23℃前後。冷たさの壁がない代わりに何セットでも回せる、周回型の水風呂だ。95℃の檜サウナとの往復を重ねるうち、論文のプロトコル一巡ぶん(1セット16分×3=約48分)を自然に超えていく。

群馬の水風呂には系譜がある。一桁台で冷たさの壁がいちばん高い高崎の蒸寺、森の中で17〜19℃を独り占めする水沼の森サウナ、16℃の安眠の湯、23℃のスカイテルメ。今回の論文の「17℃・1分」はこの系譜のちょうど真ん中あたりに位置していて、水沼(17〜19℃)や安眠の湯(16℃)の水温は実験条件にかなり近い。
ただし「短時間なら」の限定付き|論文の考察が引く安全線
ここからが、この論文でいちばん記事にしたかった部分だ。著者らは考察で、安心材料と一緒に警告例もきちんと並べている。
- 過体重で運動習慣のない若い男性では、サウナ10分+冷水浴5分を1セットとする4セット(サウナ計40分・冷水は今回の論文の5倍の長さ)の温冷交代浴で、収縮期血圧が上昇したという報告がある
- 高血圧や心血管疾患の家族歴のある37歳男性が、計2時間のサウナと冷水の交代浴の後に心筋梗塞を発症した症例報告がある
つまり今回の「悪影響なし」は、健康な若者が・短時間の冷水(1分)を・水分補給しながらという条件での話。時間を伸ばし、体調や体質の前提が変われば、話は別になる。著者ら自身も、11名という人数の少なさを挙げて、結果を他の年齢・性別・健康状態の集団に当てはめることには注意が必要だと明記している。この限界の書きぶりの誠実さは、そのまま入り方の指針として読める。
- 心臓や血圧に不安のある人は、高温サウナと冷水の組み合わせを避けるか、事前に医師へ相談を
- 水風呂は短く。論文の設定は1分。我慢比べにしない
- サウナの前後・最中に水分補給を(実験では合計500mL)
- 長時間の連続セットは、健康な人でも症例報告が出ている領域と心得る
夏場はここに熱中症のリスクも重なる。詳しくは夏サウナと熱中症の記事にまとめてある。
続報|英国の実験では「水風呂を足すと体温と心拍の上がり方が抑えられた」
この記事を公開したあと、同じ問いを別の角度から測った論文が出た。今度は英国の研究で、測ったのは血管の硬さではなく、サウナ中の深部体温・心拍数・血圧、そして本人の暑さの感じ方である。
- Owen TF, Giles CJ, Leaney SF, Coombs GB, Oliver SJ(バンガー大学・英国ウェールズ)「Thermal and cardiovascular responses to sauna are attenuated by adding cold water immersion to cooling breaks」Experimental Physiology, 2026年7月2日オンライン先行公開, DOI: 10.1113/EP093626
デザインは前半の日本の論文と同じクロスオーバー試験。健康な成人16名(女性8名・平均31歳)が、85℃のサウナ15分を2セット、その間の休憩10分を次の2パターンで日を分けて両方体験する。
- 空気だけ:23℃の部屋で10分座って休む
- 水風呂あり:同じ休憩の中に20℃の全身水風呂90秒を入れる
結果は、水風呂を入れた方が2セット目のサウナ終了時の深部体温が0.48℃低く(37.55℃対38.03℃)、心拍数が17拍/分低かった(108対125)。皮膚温も低く、本人が申告する「暑さ」も軽く、「2セット目に耐えられる」という感覚も上がった。上の血圧(収縮期)と平均血圧は、両条件で差がなかった。著者らの結論は、休憩に水風呂を加えると温熱と循環器の負担が大きく減り、サウナがより耐えやすくなって熱中症系のリスクが下がる、というものだ。
前半の日本の論文が「水風呂を足しても血管指標は悪くならなかった」だったのに対し、こちらは「水風呂を足した方が身体の負担が軽かった」まで踏み込んでいる。休憩中に水風呂で熱を捨てておけば、次のサウナに持ち込む体温と心拍が低い。サウナーが体で知っている「一回冷やすと二セット目が楽」に、数字が付いた形になる。
血圧の細かい話も、この論文の読みどころだった。空気だけで休んだ条件では、1セット目の休憩の終わりに下の血圧(拡張期)が入浴前より下がったのに対し、水風呂を入れた条件ではその低下が抑えられ、どの時点でも入浴前と差がなかった。著者らはこれを、サウナ後の立ちくらみ(起立性低血圧)を防ぐ手立てとして水風呂が使える可能性がある、と控えめに書いている。少なくともこの条件では、水風呂は血圧を跳ね上げる側ではなく、下がりすぎを止める側にいた、という読み方ができる。
ただし、こちらにも前提がある。対象は健康な成人16名で、しかも著者ら自身が「比較的サウナに慣れていない人たち」と書いており、常連サウナーでは反応が違う可能性があるとしている。心臓や血圧に持病のある人での安全性は「今後の研究課題」と明記されていて、この点は前半の論文と変わらない。
実験の「20℃・90秒」を群馬の水風呂の系譜に置くと、水沼の森サウナ(17〜19℃)とスカイテルメ(23℃)の間に落ちる。90秒という長さは、16℃の安眠の湯では壁の向こう側だが、20℃台の周回型なら無理なく収まる時間だ。
まとめ|水風呂の名誉はおおむね守られた
「水風呂は心臓に悪い?」への現時点の答えは、こうなる。
健康な若い男性が短時間で入るなら、血管指標への悪影響は確認されていない。ただし血管への上乗せ効果も確認されていない。そして長時間・持病持ちという条件では、悪い方の報告が実在する。
血管のためというより、あの脳の静けさのために入る。それが数字に裏付けられた現在地だと思えば、水風呂との付き合い方はむしろ明快になった。86℃×10分×3セットという実験条件は、群馬なら今日にでも再現できる。私の答え合わせの続きは群馬のサウナまとめのどこかの水風呂でやることになる。
同じ型で「薪で沸かした風呂は柔らかいのか」という通説を資料で仕分けた姉妹編に、薪の風呂は本当に柔らかい?ボイラーの湯との違いを調べたがある。銭湯の設備を同じ物差しで見た電気風呂は効くのかも同じ型で書いた。
長めのセットを回す日は、頭ののぼせ対策にサウナハットを一つ持っておくと楽だ。
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よくある質問
Q. 水風呂は体に悪い?
A. 2026年の日本の研究では、健康な若年男性が86℃のサウナ後に17℃の水風呂へ1分×3セット入っても、血管の硬さ指標の悪化は確認されませんでした。ただし長時間の交代浴や、心臓・血圧に不安のある人では悪影響の報告があり、該当する場合は避けるか医師に相談してください。
Q. サウナと水風呂は何セットが目安?
A. 今回の論文の実験条件は「サウナ10分→水風呂1分→休息5分」を3セット(計約48分)でした。これを大きく超える長時間の連続セットには心筋梗塞の症例報告もあるため、無理のない範囲にとどめるのが安全です。
Q. 水風呂が苦手でも交代浴の効果はある?
A. この研究では、水風呂の代わりに40℃のシャワーを使っても、血管の硬さ指標は同じ程度低下しました。血管指標の面では水風呂は必須ではないと読める結果です。



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