
別府の竹瓦温泉で1回、鉄輪のひょうたん温泉で1回、そして群馬・磯部温泉の恵みの湯で1回。私は合計3回、砂に埋まっている。3回も埋まっておいて、効くのかどうかを一度も調べていなかった。指宿の砂むし施設の公式サイトには「普通温泉の3〜4倍」と書いてあり、恵みの湯は血行や新陳代謝の話を書く。本当なのか気になって、J-STAGE(国内の学術誌のデータベース)とPubMed(米国国立医学図書館の論文データベース)、環境省の通知まで当たってみた。
結論から書くと、砂風呂で測られているのは体温と脈で、病気に効くかどうかは「結論を導けない」というのが現時点の答えだった。「3〜4倍」は指宿の施設公式が調査の結論として掲げる数字で、そう書いた論文には辿り着けなかった。仕組みは熱と砂の重さで説明でき、塩は査読研究の外側にある。調べたことを全部書いておく。恵みの湯の砂塩風呂に入った2時間の中身は体験記に分けたので、ここは「効くのか」だけを扱う。
※本記事は公開資料と研究論文の紹介であり、効果を保証するものでも医学的助言でもない。持病のある方は、入る前に医師や施設に相談してほしい。
結論の早見表|体温と脈は測られている、病気への効果は「結論を導けない」
| 論点 | 調べた結果 |
|---|---|
| 効果を測った研究 | ある。ただし測っているのは体温・脈拍・血圧など(指宿・健常者15名・対照群なし) |
| 「普通温泉の3〜4倍」 | 指宿の施設公式が1985年の鹿児島大学調査の結論として掲げる数字。論文としては辿れず、査読誌にあるのは「2〜3倍」(1987年の論文の孫引き) |
| 病気への効果 | 系統的レビュー(2019年・対象3研究)は「結論を導けない」。リウマチの小規模研究は改善を報告するが対照群なし |
| 仕組み | 温熱と、砂の重さ。湯船の浮力がなく、砂の重量が静水圧の代わりに体を押す |
| 塩 | 効果を調べた査読論文は肯定・否定とも見つからず |
| 安全側 | 恵みの湯の掲示は10〜15分・20分を超えない。心臓疾患・高血圧・妊娠中などは利用不可の場合あり |
| 私の結論 | 効くかは分からない。汗をかく午前としては気に入っている |
研究で測られていること|指宿の砂むし温泉15名、トルファンの91名、系統的レビューの3研究
砂風呂の研究の本家は指宿である。鹿児島県の指宿には地熱で砂が温まる天然の砂むし温泉があり、見つかった国内の研究は主にここで測られたものだ。測ったものと、限界ごとに並べる。
| 研究 | 対象 | 測ったもの | 結果 | 限界 |
|---|---|---|---|---|
| 野村・田中 2013(日本温泉気候物理医学会雑誌) | 健常成人男性15名・指宿「砂楽」 | 血圧・脈拍・舌下温・静脈血ガス・乳酸 | 埋没10分で脈拍が約20拍/分上昇、舌下温(深部体温に近い体温のこと)は10分で+1.1℃。乳酸は低下 | 対照群なし・学会シンポジウムの抄録。倍率の記載は一切ない |
| 松本ほか 2018(Jpn J Rehabil Med・総説) | 独自データなし | 12種類の入浴法の比較表 | 砂浴は通常入浴比「およそ2〜3倍」の深部体温・心拍出量の増大(田中ら1987年を引用) | 総説=孫引き。1987年の原著は本文未確認 |
| Dilixatほか 2002(日本温泉気候物理医学会雑誌) | 中国トルファンの砂療法・関節リウマチ患者を含む91名 | 心拍・血圧・体温・リウマチ症状・CRP | 静脈環流の増大→心拍出量の増加という循環の変化を報告。高血圧・心疾患・脳卒中既往者への禁忌にも言及 | 前後比較が中心・指宿の砂ではない |
| Antonelli & Donelli 2019(Complement Ther Med・系統的レビュー) | 砂浴療法(psammotherapy)の研究3件(COPD 1・関節リウマチ2) | 臨床効果 | 「no conclusions can be driven(結論を導けない)」。ごく限定的なエビデンスがあるにとどまる | 対象研究が少人数でバイアスリスクが不明〜高い |
| Mahmoudほか 2023(Medicine) | エジプト・シワの砂療法・関節リウマチ患者24名 | 疼痛・運動恐怖・中枢感作 | 3日群・5日群とも最も痛い関節の痛みが有意に改善。改善率は5日群が上 | 24名・無治療の対照群なし・砂質も気候も違う |
読み方はふたつ。まず、健康な人の体に何が起きるかは測られている。砂に10分埋まると深部体温が1℃強上がり、脈が20ほど速くなる。これは湯船でも起きることで、砂風呂が特別なのは「浮力がない」ことだと後で書く。次に、病気が良くなるかは分かっていない。2019年の系統的レビュー(世界の研究を集めて評価する手法のこと)が対象にできたのは3件だけで、結論は導けないと書いている。
そして「3〜4倍」。この数字の出どころは指宿の施設だった。砂むし会館「砂楽」の公式サイトは、鹿児島大学医学部の田中信行教授らが1985年7月に行った調査(血圧・心拍数・心電図など11項目)の結果として「砂むし温泉の効果は“普通温泉の3〜4倍”と結論づけています」と書き、指宿白水館の公式サイトも田中教授らの調査を根拠に「普通の温泉の3〜4倍」と書いている。ただし、どちらも論文名は書いていない。査読誌にあるのは、2018年の総説が1987年の田中らの論文を引用して書いた「およそ2〜3倍の深部体温・心拍出量の増大」で、こちらも私は1987年の原著本文を確認できていない。「3〜4倍」は施設が調査の結論として掲げる数字、論文でたどれるのは「2〜3倍」の孫引きまで、というのが探した結果である。同じ調査を指しているとすれば、施設は3〜4倍、総説は2〜3倍と書いているわけで、どちらが原著の数字かは原著を読まないと分からない。数字が一人歩きしているのは温泉の効能全般と同じ構図で、その話は温泉の効能はどこまで本当?に書いた。
効く仕組み|熱と砂の重さ、塩は査読研究の外
砂風呂で体に起きていることは、温熱と砂の重さのふたつで説明がつく。
熱のほうは湯船と同じ枠だ。温かいものに体を包まれれば深部体温が上がり、血管が広がる。環境省が温泉の効用を「総合作用」と言うときの「温熱」がこれで、砂であっても湯であっても機序は変わらない。
砂風呂が湯船と違うのは、重さである。湯船には浮力があって、体は軽くなる。砂には浮力がない。代わりに砂の重量が体を押す。2018年の総説の比較表は、入浴法を「温熱」「浮力」「静水圧(水の重さで体が押される圧のこと)」などの軸で並べていて、砂浴は浮力を欠く一方、砂の重さが静水圧に似た役割を担う、という位置づけが読み取れる(表の構成から読める整理で、本文に一文として明記されているわけではない)。2002年のトルファンの研究も、静脈環流の増大から心拍出量の増加へ、という同じ循環の変化を報告している。竹瓦温泉の砂が「結構重くて熱かった」という私の記憶は、この重さの話である。
塩はどうか。恵みの湯の砂には塩が混ぜてあり、安中市の公式ページは「白い砂とミネラルたっぷりの塩がブレンドされた砂塩風呂に入ると血行がよくなり、発汗が促進され新陳代謝が活発になります」と説明している。この説明を裏づける査読論文も、否定する査読論文も、私は見つけられなかった。塩サウナで「塩が古い角質や皮脂を溶かす」という説については、日本サウナ学会代表理事の加藤容崇氏が、皮脂の脂肪酸は食塩では溶けず、皮脂の融点約60℃にサウナ室では達しないとして誤りだと説明している(専門家の見解であって査読研究ではない)。塩の効果は、施設がそう説明している、までにとどめておく。
睡眠や疲労回復も、外挿になる。就寝1.5〜2時間前に深部体温が大きく上がる入浴をすると寝つきが良くなる、という研究はあるが(給湯器メーカーと九州大学の共同研究のリリース)、これは湯船の話で、砂風呂で確かめた研究は見当たらなかった。砂に埋まった日の夜によく眠れたかどうかは、私は確かめていない。
砂風呂は5種類ある|地熱、温泉、蒸気、ヒーター、そして塩
一口に砂風呂と言っても、砂の温め方と、混ぜものの有無が違う。調べた範囲で、日本の日帰り施設を分けるとこうなる(トルファンやシワの砂療法は別枠)。
- 地熱で温まる天然の砂むし:指宿型。地下から来る地熱で砂が温まる(鹿児島県の説明)
- 温泉で温めた砂:別府・竹瓦温泉型。「砂かけさん」が温泉で温めた砂をかける(公式)
- 温泉の蒸気で温めた砂:別府・ひょうたん温泉型。蒸気なので「一般的な砂湯よりも穏やかな温度」(公式)。砂は自分か連れがかける
- ヒーターなど人工の熱源で温めた砂:湯河原の施設がこの方式(こちらは砂でなくセラミックビーズ)。恵みの湯も、熱源はヒーターだとスタッフに聞いた
- 砂に塩を混ぜたもの:恵みの湯の砂塩風呂。東京の砂塩風呂の店も同じ方式で、熱源は遠赤外線=4と5の両方に当たる
体温と脈の一次データ(2013年の15名)が測られたのは1の指宿で、私が入ったのは2と3と4(かつ5)だ。だから指宿の数字をそのまま恵みの湯に当てはめることはできない。温度も、砂の重さも、時間も違う。それでも「熱に包まれて、浮力なしで押される」という骨格は共通なので、仕組みの話は使い回せる。関東で砂に埋まれる日帰り施設は、調べた限りでは数えるほどだった(全数調査ではないので「群馬唯一」とは書かない)。
私の体感|別府で2回、磯部で1回
体感は3回分しかない。竹瓦温泉は数年前で、結構重くて熱かった。ひょうたん温泉は自分で砂をかける方式で、セルフの砂遊びみたいだった。恵みの湯は土曜の午前に予約して入り、砂は竹瓦より軽かった。それでも汗はどんどん出て、掲示の目安の上端の15分で出た。
3施設の方式・料金・時間の比較表と、恵みの湯の受付から退出までの2時間は、恵みの湯(磯部温泉)砂塩風呂の体験記にまとめてある。ここでは「軽い砂でも汗は出る」「竹瓦の砂は重く、熱かった」の2点だけを、上の仕組みの話に添えておく。砂温も室温も私は測っていないので、数字は書かない。
安全に入るために|10〜15分、20分を超えない、入れない人
効果の話は「分からない」で終わるが、安全側は出典つきで書ける。

恵みの湯の掲示には「砂塩風呂のご入浴時間は(中略)10分〜15分が理想的です。20分を超えると自律神経バランスを崩し、過呼吸症やノボセの原因になります」とある。理由づけは施設の説明だが、20分という上限は守るべき数字として受け取っておく。別府の竹瓦温泉は「温かい砂に15分埋まります」と公式が案内し、ひょうたん温泉は「低温火傷に注意」「長時間利用に注意」と注意書きを載せている。砂の中では自分で温度を調節できない。熱いと感じたら手を出すか、声を出す。
利用できない場合がある人として、安中市の公式ページは5つ挙げている。心臓疾患のある人、高血圧(上が180以上)の人、伝染性の皮膚病の人、妊娠している人、お酒を飲んでいる人。2002年のトルファンの研究も、高血圧・心疾患・脳卒中の既往がある人への禁忌に触れている。
温泉の入浴一般については、環境省の掲示基準(2014年)が、高齢者や高血圧・心臓病・脳卒中の経験がある人は42℃以上の高温浴を避ける、入浴時間は慣れるまで3〜10分、飲酒後は避ける、水分を補給する、と定めている。これは湯船の基準で砂風呂固有のものではないが、砂で深部体温が1℃上がる以上、同じ注意が当てはまると考えている。この基準は夏の水分補給と熱中症でも整理した。
砂風呂は汚くないか|浴衣一枚と、書かれていない砂の管理
砂風呂の話をすると、効くかどうかより先に「他人が汗をかいた砂に埋まって汚くないのか」は、私自身は気にならなかったが、気にする人はいそうだと思った。調べて分かったことと、分からなかったことを分けて書く。
分からなかったのは、砂の洗浄や交換の頻度だ。砂楽・竹瓦温泉・ひょうたん温泉・恵みの湯(安中市)の公式サイトを2026年9月時点で読んだ範囲では、砂をどう洗い、いつ入れ替えるかは書かれていなかった。観光メディアは砂楽について「1日1〜2回、温泉で砂を消毒している」と書いているが、施設の公式サイトに同じ記載は見つからなかったので、二次情報として受け取っている。温泉の湯には温泉法で加水・加温・循環ろ過・消毒の有無を掲示する決まりがあるが、砂にそれに当たる掲示の決まりは私が調べた範囲では見当たらず、砂の衛生は湯のように掲示で確かめる手段がない、というのが現状である。
分かったのは、肌と砂の間には浴衣一枚が入る、ということだ。砂楽の公式サイトは「浴衣のみ」に着替え、レンタル品以外の衣類や下着、水着は着用しないよう案内し、竹瓦温泉の公式サイトも「浴衣を着て砂の上に横たわる」と書いている。恵みの湯も下は裸で浴衣一枚だった。砂が直接触れるのは首元と手足の先くらいで、顔と頭は砂の外だ。砂楽は砂よけのタオルを持って入らせ、上がったら「シャワーや掛け湯で砂をよく落とす」「温泉の前に髪などを洗う」と手順を決めている。恵みの湯では、お湯のシャワーで砂を落とすよう案内された。
私自身は3回とも、砂の匂いや異物、湿り気が気になったことはなかった。ただ、これは3回分の印象であって、砂が清潔だという証拠ではない。つまり「汚くないか」への答えは、清潔だと保証する材料も、汚いと言う材料も無く、浴衣とシャワーの手順で肌と砂の接触を減らしている、というところまでになる。気になる人は、施設に電話で砂の交換頻度を聞くのが早い。
まとめ|効くかは分からない、それでも埋まる
砂風呂で測られているのは体温と脈で、健康な人が10分埋まれば深部体温が1℃強上がり脈が20速くなる、というところまでは一次データがある。病気に効くかは系統的レビューが「結論を導けない」と書き、「3〜4倍」はどの論文にもたどれず、塩は肯定も否定も査読論文が見つからなかった。仕組みは熱と砂の重さで足りる。
それでも私は砂に埋まる。理由は効能ではなく、汗をかいて薬草茶を飲む午前が気に入っているからだ。効能を同じ物差しで考えた記事が温泉の効能はどこまで本当?、同じ型で読んだのが電気風呂は効くのかとジェットバスは効くのか。恵みの湯の大浴場と館内は施設の記事に、砂塩風呂の2時間は体験記に書いた。
なお恵みの湯は2026年10月1日から31日まで浴室の工事で休館する(市公式の告知)。砂塩風呂は毎週火曜が定休で要予約。行くなら9月中か11月以降に、火曜を避けて電話を。
よくある質問
Q. 砂風呂は本当に効きますか?
A. 健康な人の体温と脈が上がることは測られています(健常者15名が砂に10分埋まって舌下温+1.1℃・脈拍+約20拍、2013年の学会報告)。病気への効果は、2019年の系統的レビューが対象3研究をもとに「結論を導けない」としています。効くかどうかは証明されていない、が現時点の答えです。
Q. 砂むし温泉は普通の温泉の3〜4倍の効果があると聞きましたが本当ですか?
A. 「3〜4倍」は、指宿の砂むし会館「砂楽」と指宿白水館の公式サイトが、鹿児島大学の田中教授らの調査(砂楽は1985年7月と記載)の結論として掲げている数字で、論文名は書かれていません。査読誌(2018年の総説)にあるのは、1987年の論文を引用した「およそ2〜3倍の深部体温・心拍出量の増大」で、その1987年の原著本文は私も確認できていません。論文でたどれる根拠は孫引きの「2〜3倍」までです。
Q. 砂風呂は何分入ればいいですか?
A. 施設ごとに幅があるので掲示に従ってください。研究で体温が測られたのは砂に10分の埋没で、恵みの湯は10〜15分が理想で20分を超えない、別府の竹瓦温泉は15分と案内しています。環境省の温泉入浴一般の基準も入浴時間は慣れるまで3〜10分程度としています。熱いと感じたら手を出すか、声を出してください。
Q. 砂風呂は汚くないですか?
A. 砂の洗浄・交換の頻度は、砂楽・竹瓦温泉・ひょうたん温泉・恵みの湯の公式サイトには書かれていませんでした(2026年9月時点)。観光メディアは砂楽について「1日1〜2回、温泉で砂を消毒」と書いていますが、公式サイトでは確認できていません。肌と砂の間には浴衣一枚が入り、砂が直接触れるのは首元や手足の先くらい(顔と頭は砂の外)で、上がったらシャワーや掛け湯で砂を落とす手順になっています。気になる人は施設に電話で砂の交換頻度を聞くのが確実です。
Q. 砂風呂に入ってはいけない人はいますか?
A. 施設ごとに利用制限があります。恵みの湯は心臓疾患・高血圧(上が180以上)・伝染性の皮膚病・妊娠中・飲酒後の人は利用できない場合があるとし、2002年のトルファンの研究も高血圧・心疾患・脳卒中の既往がある人への禁忌に触れています。環境省の温泉入浴一般の基準(砂風呂固有ではありません)でも、高血圧・心臓病・脳卒中の経験がある人は42℃以上の高温浴を避けるとされています。



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