「ラドン温泉は体にいい」。温泉地の看板や施設の案内で、よく見かける言葉だ。
2026年9月、これを裏づけるように見える国内の論文が出た。抄録(論文の冒頭にある短いまとめ)には、ラドン温泉はさら湯に比べてストレス軽減効果を示した、とある。
ところが本文を最後まで読むと、印象がかなり変わった。比べていたのは「ラドン発生装置でラドンを満たした浴室」と「宿泊部屋のユニットバス」で、著者自身が「ラドン暴露のみを独立した要因として評価することはできない」と書いている。
この記事では、その論文を本文の数字まで追い、海外のメタ解析(複数の研究を集めて計算し直した研究)と公的な基準を並べて、「ラドン温泉は体にいいのか」にいま言えることを整理する。温泉ブログなのに、湯に入る場面がほとんど出てこない。出てくるのは表と数字ばかりだ。
※本記事は公開された研究論文と公的機関の資料の紹介であり、効果を保証するものでも医学的助言でもない。持病のある方、治療中の方は医師に相談してほしい。
結論|「ラドン温泉は体にいい?」にいま言えること
| 問い | いま言えること | 根拠 |
|---|---|---|
| ラドン温泉でストレスは減る? | ラドン温泉施設の専用吸入室(ラドンを満たした浴室)で入浴したあとは、宿泊部屋のユニットバスのさら湯のあとより、ストレスの指標が下がったという報告が1本ある。ラドンだけの効果かどうかは分からない | 2026年の国内論文(38人・1施設) |
| 痛みはやわらぐ? | 関節や筋肉の病気の患者が、保養地や療養施設で繰り返し治療を受けた研究をまとめると、中〜長期の痛みはラドンなしの対照より小さかった。直後〜短期は、差があるとは言い切れない結果だった | 2026年のメタ解析(8研究・2,152人。対照と比べた解析は各時期5研究) |
| 仕組みは分かっている? | 痛みがやわらぐ仕組みは大部分が未解明(メタ解析)。熱や炭酸などほかの要素と切り分けられておらず、ラドン単独の効果は十分に分かっていない(レビュー論文) | 2026年のメタ解析とレビュー論文 |
| 公的にはどう扱われている? | 環境省の基準では、放射能泉の浴用の適応症は高尿酸血症(痛風)、関節リウマチ、強直性脊椎炎などとされる。一方でWHOは、ラドンを肺がんの主要な原因の一つとしている | 環境省・WHO |
| 日帰りで1回入れば、ラドンの効果で何か変わる? | 今回読んだ研究からは言えない | メタ解析は患者が繰り返し受ける治療の話、国内論文はラドン単独を評価していない |
読んだ論文|ラドン温泉とさら湯の入り比べ
- 鈴木知明・渡辺修一郎「ラドン温泉施設(アメニティ環境を含む総合的環境)への入浴が客観的及び主観的ストレス指標に及ぼす影響─さら湯との比較で─」日本温泉気候物理医学会雑誌(早期公開 2026年9月1日)。J-STAGEの論文ページ
山梨県甲斐市にあるラドン温泉施設で、52〜88歳(平均64.5歳)の健康な中高年38人(男性23人・女性15人)が、同じ日に「ラドン温泉」と「さら湯」の両方に入った。どちらも39℃で10分。
入る順番はランダムに決め、全員が両方を体験する。この方法をランダム化クロスオーバー試験という。順番をくじ引きのように割り振り、同じ人どうしで比べるので、体質の個人差が結果に混ざりにくい。
入浴の前後に測ったのは次の5つだ。
- 唾液アミラーゼ:唾液に含まれる酵素。この論文では、客観的なストレスの指標として使われている
- VAS:0〜100の線の上に、いまのストレスの強さを自分で印を付ける方法。0がストレス少、100が多
- 収縮期血圧(上の血圧)・拡張期血圧(下の血圧)・脈拍
抄録に書かれている結果はこうだ。唾液アミラーゼは、ラドン温泉で有意に下がり、さら湯では有意な変化がなかった。VASもラドン温泉のあとに有意に改善した。血圧と脈拍には、条件による有意な差がなかった。
「有意」は統計の言葉で、「たまたまとは考えにくい差だと判定された」という意味になる。
抄録の結びは、ラドン温泉はさら湯と比べて客観・主観の両面でストレス軽減効果を示した、という内容だ。ラドンを浴びたことが、酸化ストレスへの防御や自律神経の安定に寄与している可能性にも触れている。
ここまで読めば、「ラドン温泉はストレスに効くと論文で示された」と受け取るのが自然だろう。私も最初はそう読んだ。
本文まで読むと、比べていたものが違う
「ラドン温泉」はラドン発生装置の浴室だった
本文の冒頭に、この研究でいう「ラドン温泉」の定義がある。ラドン発生装置から供給したラドン(Rn-222)を浴室に満たし、吸い込みと皮膚からの吸収をさせる医療目的の温泉、という意味だ。論文には装置の写真も載っている。
湯にもともとラドンが多く溶けている温泉、という意味ではない。論文によると、この施設の浴槽の湯そのもののラドンは、温泉分析書(2019年調査)で2.76Bq/kg(0.20マッヘ)。Bq(ベクレル)とマッヘは、どちらも放射能の強さを表す単位だ。
療養泉(治療の目的に使える温泉として、環境省が基準を定めたもの)の泉質の一つ「放射能泉」は、ラドンを111Bq/kg(8.25マッヘ)以上含む湯が対象になる。2.76はその約40分の1だ(この割り算は私がしたもので、論文には書かれていない)。
つまりこの研究は、泉質としての放射能泉を調べたものではない。
室内と水中のラドン濃度(室内1,221〜1,776Bq/m3、水中99.9Bq/L)は、発生装置を動かしているときの数字で、1980年3月に採取して測った値だ。論文は、装置の性能は一定で中のラジウムの量も変わっていないため、測定データはこの年のものだけだと説明している。
専用吸入室と、部屋のユニットバス
論文は、ラドンを満たしたこの浴室を「専用吸入室」と呼んでいる。2つの条件を、論文の記載どおりに並べる。
| ラドン温泉の条件 | さら湯の条件 | |
|---|---|---|
| 場所 | 専用吸入室 | 宿泊部屋のユニットバス |
| 浴槽 | 200×935cm | 55×95cm |
| 室温・湿度 | 32℃・90% | 28℃・51% |
| 湯 | ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉 | さら湯 |
| ほかの人 | 一般の入浴者と一緒 | 1人 |
| 湯温・時間 | 39℃・10分 | 39℃・10分 |
違うのはラドンだけではない。湯の成分、浴槽の広さ、室温と湿度、まわりに人がいるかどうか。そろっているのは湯温と時間だけだ。
ほかの入浴者もいる長さ9m余りの浴槽につかる温泉と、部屋のユニットバスに1人で入るさら湯。ラドン以外の違いだけでも、入ったあとの気分は変わりうる。著者自身もそう書いている(後の節で触れる)。
さらに、参加者はどちらがラドン温泉かを知ったうえで入っている。薬の試験では、本物か偽物かを本人に分からないようにして比べることが多い(盲検という)。この研究はそうなっていない。
結果の数字を表で見る
| 指標 | ラドン温泉 | さら湯 | 条件による差 |
|---|---|---|---|
| 唾液アミラーゼ(kIU/L) | 45.3±49.0 → 31.4±36.9 | 32.3±36.0 → 40.6±48.3 | 有意(p=0.032) |
| VAS(0〜100) | 27.4±22.5 → 17.7±16.4 | 変化 −0.7±17.7 | 有意(p=0.047) |
| 収縮期血圧 | 低下傾向 | 低下傾向 | 有意差なし |
| 拡張期血圧 | −9.6±9.3mmHg | −4.6±9.1mmHg | 有意(p=0.015) |
| 脈拍 | +7.6±8.2拍/分 | +4.4±6.6拍/分 | 有意差なし |
矢印は入浴前→入浴後。pは「本当は差がないとしたら、偶然これ以上の差が出る確率」の目安で、0.05を下回ると有意と呼ぶ決まりになっている。±のあとの数字は、人によるばらつきの幅を表す。
数字を追うと、気づくことが3つある。
1つめ。唾液アミラーゼは、入浴前の値が条件によって違う。 ラドン温泉の前が45.3、さら湯の前が32.3。ラドン温泉に入ったあとの31.4は、さら湯に入る前の32.3とほぼ同じ水準だ。ばらつきの幅も、平均と同じくらい大きい。この数字だけでは、入浴で下がった分と、もともとの値の違いを切り分けにくい。また、抄録は「有意に低下」と書くが、本文の結果はラドン温泉での変化を「低下傾向」と書いている。有意とされたのは、2つの条件の変化の差だ。
2つめ。VASは自分で付ける点数だ。 「いまラドン温泉に入った」と知っていること自体が、点数を動かしうる。これは著者も認めている(次の節)。
3つめ。抄録と本文で、血圧の書き方が違う。 抄録は血圧と脈拍に有意な差がなかったと書くが、本文の結果では、拡張期血圧だけはラドン温泉のほうが大きく下がり、差は有意(p=0.015)とされている。理由は分からないので、違うという事実だけ記す。
なお、男女による差は無く、65歳以上のほうが変化がやや大きい傾向はあったものの、有意な差ではなかった。
著者自身が書いている限界
この論文は、限界を隠していない。方法と考察、結びに、次の内容が書かれている。
- ラドン暴露のみを独立した要因として評価することはできない
- 参加者はどちらがラドン温泉か分かっていたので、期待によるバイアス(思い込みが結果を動かすこと)を排除できなかった
- 浴室の環境(浴槽の大きさ、雰囲気、ほかの人がいるかどうか)の違いが影響しうる
- 10分の入浴の直後の変化だけを見ており、長く通った場合の影響は対象にしていない
結論の書き方も、ラドン温泉施設での入浴の「総合的な環境」が、さら湯の入浴環境と比べてストレス指標の改善と関連した、という趣旨になっている。タイトルにも「アメニティ環境を含む総合的環境」と括弧書きがある。施設まるごとの比較だと、論文は最初から断っているのだ。
一方で、考察の中には、泉質の成分やラドンの働きに踏み込んだ文もある。慎重な文と踏み込んだ文が同じ論文に並び、抄録の結びには踏み込んだほうが出ている。抄録だけ読むと「ラドンが効いた」と受け取りやすいのは、そのためかもしれない。
この研究から言えるのは、「ラドン温泉施設の専用吸入室で入浴したあとは、部屋のユニットバスのさら湯に入ったあとより、唾液アミラーゼとVASが下がった」まで。「ラドンにストレス軽減効果がある」とは言えない。
海外のメタ解析|痛みは「中〜長期で差あり、直後ははっきりしない」
では、ラドンありとラドンなしを比べた研究はないのか。2026年1月に、そうした研究を集めたメタ解析が出ている。
- Christakos DP ほか「Radon Spa Therapy for the Treatment of Musculoskeletal Disorders: A Systematic Review and Meta-Analysis」Cureus 2026;18(1):e101547。PMCの全文
8本の研究、合わせて2,152人のデータを集めて計算し直したものだ。8本のうち5本はランダム化比較試験(参加者をランダムに2組へ分けて比べる試験)。また8本のうち、ラドンと対照を比べた痛みの解析に入ったのは、下の表のどちらの時期も5本ずつになる。
対象は関節リウマチ、強直性脊椎炎、変形性関節症など、関節や筋肉の病気の患者で、平均年齢は56.5歳。
比べる相手(対照)は、ラドンを含まない水を使う処置だ。人工の炭酸浴や、ラドンを含まない天然の鉱泉水などが入る。
痛みの強さについての結果は次のとおり。
| 時期 | ラドンと対照の差(効果量) | 判定 |
|---|---|---|
| 中〜長期(中期は治療後24週まで、長期は36週以上) | 0.27(95%信頼区間 0.12〜0.42、p=0.0004) | ラドンのほうが痛みが小さい・有意 |
| 直後〜短期(治療後12週まで) | 0.27(95%信頼区間 −0.09〜0.64、p=0.14) | 有意でない(差があるとは言い切れない) |
効果量は、差の大きさを、人によるばらつきを物差しにして表した数字で、0なら差なしになる。95%信頼区間は「本当の値がありそうな範囲」のことで、この範囲が0をまたぐと、差がないかもしれないという扱いになる。
2つの時期の数字は、どちらも0.27でほぼ同じだ。違うのは信頼区間の幅である。直後〜短期は、研究ごとの結果のばらつきが大きく(ばらつきの指標 I² が86.90%。中〜長期は43.28%)、信頼区間も0をまたいでいる。差があるとは言い切れない。「直後は差がないと示された」わけではない。
「ラドンありのほうが、あとになって痛みが軽い」という結果ではある。ただ、読むときに押さえたい点が5つある。
患者が繰り返し受ける治療の話である。 収録された8本の抄録を読むと、舞台として出てくるのは、ドイツとオーストリアの保養地(7か所で681人を集めた試験)や、オーストリアのガスタイン渓谷の療養施設だ。内容も、入院リハビリのプログラムの中で15回の入浴を受ける、2週間のスパ療法にラドン坑道での療法を組み合わせる、といったものが並ぶ。健康な人が日帰りで1回入る話ではない。
浴び方は国内論文と同じとは限らない。 メタ解析の説明では、ラドン浴は浴槽につかって頭を外に出す方式で、ラドンは主に皮膚から体に入り、吸い込む分は小さい。一方、開放型の浴槽や坑道では肺からも入るとあり、収録された8本には坑道を使った療法もある。8本それぞれがどの方式かは、メタ解析の本文からは分からない。国内論文は、浴室にラドンを満たした専用吸入室だった。
研究の質にはばらつきがある。 収録された8本の中には、盲検や二重盲検、プラセボ(偽の処置)との比較をうたう試験が含まれる。国内論文には無かった備えだ。ただし、ランダム化比較試験5本のうち、偏り(バイアス)のリスクが低いと評価されたのは2本。残る3本は「いくらか懸念あり」、ランダム化していない3本はいずれも中程度のリスクとされた。
痛みは自己申告である。 著者は限界として、自己申告の評価が中心であることと、出版バイアス(都合のいい結果のほうが論文になりやすい偏り)の可能性を挙げている。
安全性は調べていない。 この論文がまとめたのは痛みへの効果で、発がんのリスクなど安全性の検討は本文に見当たらなかった。痛みがやわらぐ仕組みについても、大部分が未解明だと書いている。なお、収録された8本のうち1本は、抄録でラドンによる副作用は見られなかったと書いている。ただ、この試験が参加者を追ったのは24週までだ。
著者の結論は、中〜長期の痛みの軽減について「good-quality evidence(質のよい証拠)」がある、というものだ。これは著者自身の評価である。同じ結論の中で、病気ごとにきちんと設計された試験がさらに必要だとも書いている。
仕組みをまとめた論文|ラドン単独の効き目は切り分けられていない
仕組みの研究は、2026年のレビュー論文がまとめている。
- Rodrigues GD ほか「Radon balneotherapy in rheumatologic diseases: potential mechanisms and implications for cardiovascular autonomic control and inflammation」Clinical Rheumatology 2026;45(8):4775-4790。PubMedの抄録
ナラティブレビューと呼ばれる形の論文で、決まった手順で数字を統合するのではなく、研究者がこれまでの研究を読んで解説する。著者には、ガスタインの治療施設に所属する研究者も入っている。この論文について私が読んだのは抄録だ。
ラドン療法を研究している側の論文だが、書きぶりは慎重だった。低い線量のラドンが炎症や痛みを抑える可能性を示す研究は出てきている、と紹介する。そのうえで、治療のやり方も研究の質もばらばらで、熱や炭酸など一緒に使われる要素と切り分けられないため、一般化することも、ラドンのおかげだと言うことも難しい、と書く。
結びは、ラドン単独の治療効果、長期の安全性、心臓や血管への影響は、まだ十分に分かっていないという内容だ。
国内の論文と同じ構図である。ラドンだけを取り出せていない。
公的な基準ではどう扱われているか
環境省|放射能泉の基準と適応症
数字の基準は2段ある。温泉法の「温泉」の定義では、ラドンを74Bq/kg(5.5マッヘ)以上含めば温泉と認められる。療養泉の「放射能泉」は、111Bq/kg(8.25マッヘ)以上だ。
環境省の基準では、放射能泉の浴用の適応症は、高尿酸血症(痛風)、関節リウマチ、強直性脊椎炎などとされる。適応症は、その温泉での療養が向くとされる症状のことで、治ることを保証するものではない。
入ってはいけない条件(禁忌症)のほうは、泉質別には酸性泉と硫黄泉にだけ定められていて、放射能泉の分は無い。熱があるときや重い心臓・肺の病気のときなど、どの温泉にも共通の一般的禁忌症は、放射能泉にも当てはまる。
メタ解析の対象だった関節リウマチと強直性脊椎炎が、ここにも並んでいる。ただし適応症は、基準を満たす放射能泉についての話だ。ラドン発生装置の浴室や、基準に届かない湯にそのまま当てはまるものではない。
WHO|ラドンは肺がんの主要な原因の一つ
WHO(世界保健機関)のファクトシート「Radon」(2023年1月25日)は、ラドンを肺がんの主要な原因の一つとしている。国ごとの肺がんの3〜14%がラドンによると推定され、割合はその国の平均ラドン濃度と喫煙率によって変わるという。
住宅については、年間平均で100Bq/m3を参考レベルとし、事情があって難しい国でも300Bq/m3を超えないよう勧めている。
この100Bq/m3は、毎日長い時間を過ごす家の、1年を通した平均についての数字だ。10分の入浴にそのまま当てる物差しではない。国内論文の専用吸入室(1,221〜1,776Bq/m3)と並べて「参考レベルの十数倍だから危険だ」と言うのは、物差しの当て方が違う。
かといって、「短い時間だから安全だ」と言い切る材料も、今回読んだ論文の中には無かった。メタ解析は安全性を検討しておらず、レビュー論文は長期の安全性が十分に分かっていないと書いている。
同じ気体について、「痛みがやわらぐ」という研究と「肺がんの原因」という公的な見解が並んでいる。ごく弱い放射線はかえって体に良い、という考え方(ホルミシス)は研究として存在するが、仮説の段階だ。この点は温泉の効能はどこまで書けるかをまとめた記事でも触れた。
群馬の湯で見ると
このブログで取り上げた群馬の湯に、放射能泉の基準を満たすものは今のところ無い。群馬の温泉を全部調べたわけではないので、言えるのはここまでだ。
ラドンの数字を掲示している湯はある。みなかみ町の釈迦の霊泉には、ラドン濃度の測定証明書が2枚貼られている。

温泉水が11.67〜12.72Bq/L、大浴場の空気が260Bq/m3。温泉水は放射能泉の基準111の約9分の1で、泉質としての放射能泉ではない。
ここまでの数字を並べる。
| 湯そのもののラドン | 浴室の空気のラドン | |
|---|---|---|
| 放射能泉の基準(療養泉) | 111Bq/kg以上 | - |
| 釈迦の霊泉(測定証明書・2010年) | 11.67〜12.72Bq/L | 260Bq/m3 |
| 国内論文の施設 | 2.76Bq/kg(温泉分析書・2019年調査) | 1,221〜1,776Bq/m3(専用吸入室・発生装置の稼働時・1980年採取) |
単位は出典の表記のままにした。水1Lはほぼ1kgなので、Bq/LとBq/kgはおおよそ同じ物差しで読める。
もう一つ、名前の話がある。万座温泉の湯の花旅館は、源泉名が「ラヂウム北光泉」だ。ところが浴室の温泉分析書に放射能の記載は無く、放射能泉ではない。
名前に「ラドン」や「ラジウム」とあっても、泉質がそうだとは限らない。確かめるには、温泉分析書の泉質名とラドンの数値を見るのが早い。
私の体験は「感想」止まり
私は中国地方の放射能泉に入ったことがある。湯上がりの感覚は、確かにほかの湯と違った。
ただ、それは「気持ちよかった」という感想だ。微量の放射線が効いた証拠にはならない。国内論文のVASも、本人が自分で付ける点数だった。入った本人が「いい湯だった」と感じることと、ラドンという成分が体に作用したと示すことの間には、まだ距離がある。
だからこのブログでは、放射能泉やラドンについて「効く」とは書かない。書くのは、分析書の数字と、環境省の適応症と、自分が入った感想。この3つを混ぜないことにしている。
論文を本文まで読む話は、水風呂と温冷交代浴の論文レビューでも書いた。
まとめ
- 2026年の国内論文が比べたのは、ラドン発生装置でラドンを満たした浴室と、宿泊部屋のユニットバスのさら湯。ストレスの指標は前者で下がったが、著者自身がラドンだけの効果としては評価できないと書いている。湯そのもののラドンは2.76Bq/kgで、泉質としての放射能泉の研究でもない
- 海外のメタ解析では、関節や筋肉の病気の患者が繰り返し受ける治療で、中〜長期の痛みが対照より小さかった。直後〜短期は差があるとは言い切れず、安全性は検討されていない。レビュー論文は、ラドン単独の効果と長期の安全性は十分に分かっていないと書いている
- 環境省の基準では、放射能泉の浴用の適応症は高尿酸血症(痛風)、関節リウマチ、強直性脊椎炎など。WHOはラドンを肺がんの主要な原因の一つとしている
- 日帰りで1回入ることにラドンの効果があるかは、今回読んだ研究からは言えない。「気持ちよかった」は感想で、ラドンが効いた証拠ではない
出典
- 鈴木知明・渡辺修一郎「ラドン温泉施設(アメニティ環境を含む総合的環境)への入浴が客観的及び主観的ストレス指標に及ぼす影響─さら湯との比較で─」日本温泉気候物理医学会雑誌(早期公開 2026年9月1日)DOI: 10.11390/onki.2383
- Christakos DP ほか「Radon Spa Therapy for the Treatment of Musculoskeletal Disorders: A Systematic Review and Meta-Analysis」Cureus 2026;18(1):e101547 DOI: 10.7759/cureus.101547
- Rodrigues GD ほか「Radon balneotherapy in rheumatologic diseases: potential mechanisms and implications for cardiovascular autonomic control and inflammation」Clinical Rheumatology 2026;45(8):4775-4790 DOI: 10.1007/s10067-026-08202-y(抄録を参照)
- WHO「Radon」ファクトシート(2023年1月25日)
- 環境省 鉱泉分析法指針(放射能泉の基準)、「温泉法第18条第1項の規定に基づく禁忌症及び入浴又は飲用上の注意の掲示等の基準」(環自総発第1407012号・平成26年7月1日。適応症と禁忌症)
メタ解析に収録された研究のうち、本文で触れたもの(いずれもPubMedの抄録を参照)。
- Annegret F ほか「Long-term benefits of radon spa therapy in rheumatic diseases: results of the randomised, multi-centre IMuRa trial」Rheumatol Int 2013;33(11):2839-50
- Franke A ほか「Long-term efficacy of radon spa therapy in rheumatoid arthritis–a randomized, sham-controlled study and follow-up」Rheumatology (Oxford) 2000;39(8):894-902
- Gaisberger M ほか「Endogenous anandamide and self-reported pain are significantly reduced after a 2-week multimodal treatment with and without radon therapy in patients with knee osteoarthritis: a pilot study」Int J Biometeorol 2021;65(7):1151-1160
- van der Zee-Neuen A ほか「Improvement of Pain Symptoms in Musculoskeletal Diseases After Multimodal Spa Therapy in the Austrian Gastein Valley-A Study Based on Longitudinal Registry Data」Int J Public Health 2023;68:1605931
- Donaubauer AJ ほか「Effects of serial radon spa therapy on pain and peripheral immune status in patients suffering from musculoskeletal disorders- results from a prospective, randomized, placebo-controlled trial」Front Immunol 2024;15:1307769
よくある質問
Q. ラドン温泉は体にいいのですか?
A. 今回読んだ研究からは、言い切れません。2026年の国内論文は、ラドン温泉施設でラドンを満たした浴室に入ったあとのほうが、宿泊部屋のユニットバスのさら湯のあとよりストレスの指標が下がったと報告していますが、著者自身がラドンだけの効果としては評価できないと書いています。海外のメタ解析は、関節や筋肉の病気の患者が繰り返し受ける治療で、中〜長期の痛みが対照より小さかったとしていますが、直後〜短期は差があるとは言い切れず、安全性は検討していません。
Q. 放射能泉の適応症は何ですか?
A. 環境省の基準では、放射能泉の浴用の適応症は高尿酸血症(痛風)、関節リウマチ、強直性脊椎炎などとされています。適応症は、その温泉での療養が向くとされる症状のことで、治ることを保証するものではありません。放射能泉だけの禁忌症(入ってはいけない条件)は定められていませんが、熱があるときや重い心臓・肺の病気のときなど、どの温泉にも共通の一般的禁忌症は当てはまります。持病のある方は医師に相談してください。
Q. 「ラドン温泉」と名前が付いていれば放射能泉ですか?
A. そうとは限りません。療養泉の放射能泉は、ラドンを111Bq/kg(8.25マッヘ)以上含む湯が対象です。今回読んだ国内論文の施設は、ラドン発生装置で浴室にラドンを満たす方式で、湯そのもののラドンは温泉分析書で2.76Bq/kgでした。泉質を確かめるには、温泉分析書の泉質名とラドンの数値を見るのが早いです。
Q. ラドンは体に害がありますか?
A. WHOのファクトシートは、ラドンを肺がんの主要な原因の一つとし、住宅の年間平均で100Bq/m3を参考レベルとしています。これは毎日長い時間を過ごす家についての数字で、短い入浴にそのまま当てる物差しではありません。一方で、短い入浴なら安全だと言い切る材料も、今回読んだ論文の中にはありませんでした。レビュー論文は、長期の安全性はまだ十分に分かっていないと書いています。
Q. 群馬に放射能泉はありますか?
A. このブログで取り上げた群馬の湯に、放射能泉の基準を満たすものは今のところありません。群馬の温泉を全部調べたわけではないので、言えるのはそこまでです。みなかみ町の釈迦の霊泉にはラドン濃度の測定証明書が掲示されていますが、温泉水は11.67〜12.72Bq/Lで、基準111の約9分の1です。



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